混合介護の現状と今後の展望

11月10日に小池百合子東京都知事が都内の介護施設を視察した際、「混合介護を都内で解禁するよう国に働きかける」と特区として実施したい考えを明らかにしました。それ以前にも公正取引委員会が、「介護分野に関する調査報告書」を発表し、混合介護の利用促進と弾力化を提言。全国老人福祉施設協議会がこれを批判し、自民党議員まで巻き込む大騒動になりました。そこで改めて混合介護とは何か。介護業界はどう変わるのかを詳しく説明していきます。

 

混合介護とは?

「混合介護」は、介護保険で受けられるサービスと保険外の有料サービスを一緒に使うことです。現行の介護保険制度でも混合介護は認められていますが、厚生労働省は「介護保険内のサービスと保険外のサービスは、それぞれのサービスを明確にして提供すること」と見解を示しており、それが混合介護の浸透しない要因といわれています。

◇混合介護で利便性アップ

訪問介護を例に説明すると、現状の制度でホームヘルパーが介護保険の身体介護を行った後に保険外の家事援助を行う場合、「サービスを明確にする」ために、一旦事業所に戻り、再度訪問して家事援助を行うか、別のヘルパーが家事援助をするかを強いられます。これでは利用者にとっても、事業所にとっても効率が悪く利便性が低いですね。

混合介護が認められれば、身体介護(介護保険)の後に、家事援助(保険外)を行うことが認められるため、スムーズに業務が遂行できるのです。

≪混合介護による利便性向上事例(1)≫

生活支援(便利屋)サービスを全国で展開する株式会社ベンリーコーポレーションは、名古屋市より介護予防・日常生活総合支援事業の指定業者(訪問型サービスA)の認定を受けました。地域包括支援センターを定期訪問し、高齢者の生活援助等サービス(保険内)を提供しつつ、介護保険で認定されていない生活支援サービス、例えば、修理、庭の草むしり、網戸の張り替え、施設に入る際の片付けや荷物の運搬など、高齢者のあらゆる困り事、ニーズにワンストップで対応しています。

≪混合介護による利便性向上事例(2)≫

訪問介護事業を中心に、居宅介護支援、通所介護事業等、幅広く展開している株式会社やさしい手では、IoT生活支援(保険外サービス)と介護保険サービスとの一体的な提供を始めました。ご家族の支援の替わりにIoT(様々なモノや機器がインターネットに接続されること)を活用し、サービス提供外の時間帯にも疾患管理の支援を行っています。一例を挙げれば、独居要支援者に対し、服薬支援ロボットが時間になれば自動音声で声かけ、薬が取り出されると家族やヘルパー等に通知が行く仕組みです。新しい技術を活用するうことで、混合介護の幅も広がってきそうです。

◇混合介護で収益アップ

介護保険では、国によってサービス内容や報酬額が定められているため、自由に新しいサービスを作り出したり、価格を設定することができません。入所事業では60%、通所事業では70%、訪問事業では80%以上が適正な運営のラインと人件費比率が高いうえに、利用者数によって職員定員も決められるため、ほとんど人員削減も行えません。つまり「市場開放で競争の原理を働かせる」といわれながらも、そうはならない現状があるのです。

 

≪介護事業の人的生産性≫TKC BAST(平成28年決算企業)

事業 1人当り限界利益 労働分配率
通所・短期入所介護事業 月35.5万円 64.0%
訪問介護事業 月29.5万円 70.0%
その他の老人福祉・介護事業 月44.2万円 58.6%

*限界利益=売上高-変動費/労働分配率=人件費÷限界利益

介護事業に自由競争の原理を持ち込むためには、他と異なる付加価値を持ったサービスと、それに見合った対価が必要です。混合介護では介護報酬はそのままに、施設独自のサービスを組み合わせることができるのです。しかも料金設定は自由。付加価値が認められたり、利用率の高いサービスが多く利用されれば、その分が増益になります。

事業収入がアップすれば、これまで課題とされていた介護従事者の収入もアップ。また、スキルの高いヘルパーに対して保険外で「指名料」を設定することも可能なため、その分を歩合にすれば、賃上げとモチベーションアップが期待できるというわけです。下表のようなモデルが成り立てば、事業所収益が約85%もアップします。アップした収益の一部を給与で還元しても、充分に収益確保できるレベルです。

 

≪混合介護の料金モデル 利用者1割負担の例(訪問介護)≫

サービス内容 事業所収益 利用者負担
身体介護(介護報酬) 4,000円 400円
家事援助(独自サービス) 3,000円 3,000円
指名料(独自サービス) 500円 500円
合計 7,500円 3,900円

組み合わせ次第では多彩なサービスができるので、利用者の選択肢も広がります。まさに混合介護は介護業界の切り札といえるでしょう。

 

混合介護への反対意見

利用者にも事業所にも有益に感じる混合介護ですが、反対意見も寄せられています。まず当事者である特養などで構成する「全国老人福祉施設協議会(全国老祉協)」が、高齢者福祉の公平性と、社会福祉法人の公共性を主張して反対しています。

また公正取引委員会でも「介護分野に関する意見交換会」にて、混合介護についての議論が行われ、有識者の意見が真っ2つに分かれているようです。

つまりメリットだけでなく、「低所得な人は、混合介護の料金が払えず、介護サービスに格差が生じる」ことや、「認知症などにより理解力が低下した高齢者に、不必要なサービスを押し付ける事業所が出るのでは」と懸念しているわけです。

しかし、現在のシステムが利用しにくく、事業所の増収につながらないことは確かです。混合介護については、内容や料金を精査する、すべてのサービスに独自サービスを内包するのではなく、オプショナルとするなどの工夫で、不公平感は軽減できるでしょうし、モラルのない業者による法外なサービスや抱え込みについても、最初から何らかの方策を練ることで、抑制できるのではないかと思います。

先の公取委員会における調査報告書(平成28年9月)でも、「多様な事業者の新規参入や,公平な条件の下での競争、各事業者の創意工夫の発揮,利用者の適切な選択が可能となる環境を整備していくことが重要である。その結果,多様な事業者の新規参入が進み,必要な介護サービスの供給量が増加するととともに,事業者間の競争の促進や利用者の適切な選択を通じて、利用者に提供される介護サービスの質の向上が図られ,ひいては,我が国が抱える介護人材の不足等,介護分野に係る課題の解決にも資すると考えられる。」と結論付けています。

 

東京都豊島区が混合介護特区を申請

現在、東京都豊島区は「混合介護」導入を検討しています。政府の国家戦略特区を使い、介護保険サービスとその他のサービスを一体的に提供できるよう規制緩和を図ろうとしています。全国初となるこの取り組みが認められ、実績が上がれば、混合介護が全国的な広がりを見せることが期待されます。
このあたりは、混合介護で広がるビジネスチャンスにて紹介していますので、そちらも併せてご覧下さい。

 

今後の展望

政府の「規制改革推進会議」で一部のサービスに限定して導入する案が浮上しています。11月30日に開かれた、医療・介護のワーキンググループとのヒアリングでは、混合介護に賛同する声があがっているようです。内閣府は今後、厚生労働省への意見書に盛り込めるか調整する予定です。混合介護については、ネガティブに考えずに、「どうすれば実現できるか」を考える時が来ているといえるでしょうね。

 

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