2018年度介護保険制度改正 5つのポイントと課題

厚生労働省が提出した「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」が、3月28日に衆議院本会議で審議入りしました。2018年度の改正では、何がどう変わるのかを解説します。

 

2018年度介護保険法改正のポイント

今回の介護保険の一部改正は、「地域包括ケアシステムの強化」を主とし、5つの柱で構成されています。

 

1. 要介護状態の改善などに応じた保険者への財政的な支援

2018年以降の介護予防・日常生活支援総合事業などは、全保険者に完全実施されます。介護サービスにかかる費用を抑制するためには、要介護状態にならないよう介護予防に力を入れる必要があります。

国は実績などに応じた交付金を出すなどインセンティブを用意し、市町村の保険者の機能強化を図ることを予定しています。また地域密着型通所介護が介護保険事業計画で定める見込量に達している場合は、市町村が指定を拒否できることを法案に盛り込んでいます。

<課題>
・今後、市町村間で介護における格差が広がることが想定される。現在も居住している市町村によって福祉が手厚かったり、私立高校の学費が無料であるなどの格差がありますが、介護においても大きくサービス格差が生じることが想定されます。

 

2. 介護療養病床などに代わる介護医療院の創設

「社会的入院が、医療費を圧迫している」という理由により、2006年の医療保険制度改革及び診療報酬・介護報酬同時改定により、2011年度末までの介護療養病床の廃止が決定。
しかし、特養などへの転換がスムーズに行えず、廃止は2017年度末まで延長されることになりました。現在の介護療養病床は新たに「介護医療院」として創設され、さらに6年間の移行期間が設けられています。

介護医療院は、医療的な対応が必要な高齢者を介護する「介護保険施設」です。医療法上は介護老人保健施設などと同じ医療提供施設であり、病院などの医療機関ではありません。
介護報酬や職員配置基準などは法案成立後に決定されますが、医師や看護師を手厚く配置する「新類型I-1」または、老人保健施設並みの配置の「新類型I-2」に分かれるのではないかといわれています。

<課題>

・2度も延期されていることから、今回も本当に移行できるのか現実味を帯びにくい。
・医療機関から施設に変更されることで、医療従事者の流出が懸念される。
・介護従事者の配置が手厚くなった場合、人手不足に拍車がかかる。

この案件には新たな受け皿の整備だけでなく、様々な課題が散在しています。介護医療院という聞きなれない名称に決定したのは、医療機関から施設に変更されることに対し、医師などのプライドに配慮した(施設と呼ばれことに抵抗がある?)といわれています。また今以上に介護職員が必要であれば、いかに人材を確保するかという課題も上がってくるでしょう。

 

3. 障害福祉サービスを一体的に行う共生型サービスの創設

現行の制度では、市町村が認めれば介護保険事業所は障害福祉サービスを提供することができますが、その逆は認められていず、利用者が65歳を迎えると介護保険優先原則により介護保険が優先され、障害福祉事業所を離れて介護保険事業所に移らなくてはなりませんでした。

今回の改正により、ホームヘルプサービス・デイサービス・ショートステイを「共生型サービス」と位置づけ、障害福祉事業所が介護保険事業所の指定を受けやすくするための見直しがおこなわれました。高齢者や障害者といった垣根を取り外して一元的な介護を行うことにより、慣れ親しんだ事業所から切り離さなくて済むだけではなく、限られた労力を最大限に活用する狙いも含まれています。

<課題>

・高齢者・障害者それぞれに介護の内容が異なるため、専門知識がある者が確保できない場合、サービスの質の低下が懸念される。
・地域性によって共生の理念が浸透するか不明瞭

共生型サービスは、すでに富山県で「富山型デイサービス」として実施され、高齢者・障害者などの隔たりを作らず、子供も含めて地域が一丸となり共生することで、相乗効果をもたらすという取り組みが行われています。 ただし高齢者のケアは障害者とは異なりますし、共生が必ずしもすべての人にメリットがあるとは言い切れません。また、従来から結びつきが強い地域であればスムーズに受け入れられるでしょうが、都市部などで共生の理念に賛同を得られるかという点も不明瞭です。

 

4. 2018年8月から現役並み所得のある利用者の3割負担導入

現行での第二号被保険者の介護保険料は、協会けんぽまたは健康保険組合が、第二号被保険者数に応じて負担する「加入者割」を採用しています。協会けんぽも健康保険組合も保険料負担額は同額であるため、実質的には所得の低い協会けんぽの負担割合は多く、大企業に所属する健康保険組合の負担割合は少ないといえます。

今回の改正では、報酬額に反映させる「総報酬割」に変更。大企業や公務員など高所得者の負担割合が増加する仕組みです。すでに2017年から段階的に開始し、全体の3分の1、2分の1、4分の3と3年間かけて全面導入する予定です。

<課題>

・国が負担していた協会けんぽの国庫補助を、健康保険に擦りかえる」という批判がある。
・財政状況も逼迫している中、総報酬割の実施においても健保組合を持続できるのか、十分な議論がなされていない。

介護保険は発足当初から「走りながら考える制度」といわれてきましたが、応益負担が導入されたり、保険料を徴収されながらも使えないサービスが出てくるなど迷走し、「共に支え合う」という介護保険制度の理念が薄れかかっています。 “法定価格”が定められている以上、他の事業所の方が安く利用できるということもないですし、介護は生涯にわたり必要となるため、どれほどの負担が必要なのか目測が付きません。

 

5. 40~64歳の保険料計算に総報酬割を段階的に導入

現行での第二号被保険者の介護保険料は、協会けんぽまたは健康保険組合が、第二号被保険者数に応じて負担する「加入者割」を採用しています。協会けんぽも健康保険組合も保険料負担額は同額であるため、実質的には所得の低い協会けんぽの負担割合は多く、大企業に所属する健康保険組合の負担割合は少ないといえます。

今回の改正では、報酬額に反映させる「総報酬割」に変更。大企業や公務員など高所得者の負担割合が増加する仕組みです。すでに2017年から段階的に開始し、全体の3分の1、2分の1、4分の3と3年間かけて全面導入する予定です。

<課題>

・国が負担していた協会けんぽの国庫補助を、健康保険に擦りかえる」という批判がある。
・財政状況も逼迫している中、総報酬割の実施においても健保組合を持続できるのか、十分な議論がなされていない。

日本は、少子高齢化に伴い「国民皆保険制度が維持できるか」という局面を迎えています。今回の改正は、協会けんぽの国庫負担分を健康保険に背をわせた形ですが、健康保険の財政事情も見通しが明るいわけではありません。協会けんぽの保険料引き上げも時間の問題と思われます。

 

2015年度の介護保険の一部改正による影響

2015年度にも前倒しで介護保険の一部改正が行われました。実質的な介護報酬の引き下げにより、2016年度は小規模な新規参入事業所を中心に、介護保険制度施行以降最大の108件が倒産しています。

また特別養護老人ホームの入所要件が変更、一部の利用者負担が1割から2割になるなど、大きく変更が図られたことにより待機者も減少し、調査対象の13%の施設に空きがある状態が発生しています。人材不足にも歯止めがかからず、入所希望者がいるにも関わらず介護職員の不足により利用を制限したり、すべての事業を閉鎖する事業所も出ています。

2018年の介護保険の制度改正が、今後どう影響するのか。十分に対策を考える必要があるでしょう。

 

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