離設の現状と問われる介護施設の責任問題
一般の方には馴染みがありませんが、介護現場では「離設」と言う言葉が、しばしば使われます。意味は「無断で施設から出て行ってしまうこと」。自分の意思で出ていくこともあれば、認知症のために空いたドアから不意に出て行ってしまうこともあります。もし怪我や事故などが起きれば、事業所への責任問題は免れません。ここでは「離設」の現状についてお伝えいたします。
増え続ける認知症高齢者の行方不明
年間1万5000人。これは2016年度に警察に行方不明届が提出された認知症患者の数です。ちょっと目を離した間に家から出て行ってしまい、事故で亡くなったり、行方不明になる人が増加しているといいます。認知症を患った人が電車に轢かれ、遺族に損害賠償が求められた裁判は記憶に新しいですね。この裁判は逆転判決となり、家族や妻への賠償責任は問われませんでしたが、もし施設で同じような事故が起きた場合、責任は逃れられません。
問われる施設の責任
最近では2016年9月に、デイサービス施設の非常口から抜け出した76歳の女性が、3日後に1.5km離れた畑で凍死した状態で発見された事故について家族と訴訟が起き、福岡地裁は「施設職員は女性に徘徊癖があることを認識しており、見守る義務があった」として施設側に2870万円の支払いを命じています。慢性的な人手不足により、どの事業所もギリギリの人数で運営している中、こうした事故はいつ起きても不思議ではありません。
施設の現状
実際に施設を見ると、離設防止のための工夫が見られます。正面玄関には認知症の方が容易に出入りできないよう、センサーが取り付けられていたり、インターフォンで確認して解錠するなどの工夫が見られます。また多くの施設は、ドア付近に事務所を設けるなど、目視での確認もできるようになっています。職員玄関はパスワードの入力が必要だったり、オートロックなど、目の届かない場所から出て行ってしまうことを防いでいます。
2階以上に居室がある場合、フロアから出て行かないように、入居者がエレベーターや階段を使えないようにしているところもありますが、あまり施錠しすぎると「身体的拘束等の原則禁止」に触れてしまいますし、非常階段や非常口がすぐに使えないようであれば、災害時に意味をなしません。
離設する方の傾向
離設する方には、下記の2つの傾向があります。
・認知症徘徊型
認知症の方は、場所や時間の意識が不鮮明です。例えば、施設内を自宅、自分の年齢を40代と思い、主婦の頃の感覚で、一日中拭き掃除をする動作をする人がいます。そうした方は外であっても自宅の一部と思い、来客について行ったり、どこかが開いていると出て行ってしまうことがあります。もちろん自力で戻ることはできません。屋外は施設内と違ってバリアフリーではありませんので、どこかに足を引っかけてケガをする可能性は大きいですし、季節によっては凍死してしまうこともあります。
・計画型脱走
施設に入所していることに納得できず、自ら離設を図る方もいます。特に短期入所の方などは、家庭と違う雰囲気に馴染めず、荷物を踏み台にして窓などから出ていくことがあります。そうした行動は、職員が手薄な早朝や夜に行われるため、発見が遅れてしまいますし、目撃者が少ないため捜索も難航します。以前、筆者が勤務していた介護施設でも早朝と夜間に離設した方がいました。施設から連絡を受け探したところ、ひとりは2㎞も離れた道路を歩いているのを発見、もう一人は側溝にはまって動けなくなっているところを発見しました。
離設を防ぐためには
様々な工夫を凝らしても、出ていきたい人は職員の裏をかいて出て行ってしまいます。ロックを厳重にするのも手段の一つのですが、むしろ「なぜ離設するのか」と言う背景に着目してください。認知症の方であれば行動パターンと頭の中に描いている世界を理解する必要がありますし、自分の意思でそうしている方は、不安や不満などがあるはずです。まずは人としての機微に触れてみてください。
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認知症高齢者の徘徊対策・離設防止策まとめ9選
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