介護施設が取り組むべきインフルエンザ対策
寒い時期になると大流行するインフルエンザ。毎年猛威をふるうインフルエンザですが、その脅威は介護施設でも例外ではありません。学校や保育施設では、インフルエンザが大流行したときには学級閉鎖などの対策が取られます。しかし、介護施設は閉鎖をすることはできず、常に入所者と職員がいなければなりません。
ですから、介護施設ではインフルエンザが大流行する前にしっかりと予防をすることが大切です。インフルエンザを持ち込まないようにするには?もし誰かがインフルエンザになってしまったら?その疑問にお答えします。
1. インフルエンザの正体
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを感染することで起こる病気です。症状は、高熱やのどの痛み、全身のだるさ、関節痛などが代表的なものです。症状だけに注目すると、所謂「風邪」と同じですが、インフルエンザは一般的な風邪よりも重症化しやすく、特に高齢者では死に至ることもある重篤な病気です。
インフルエンザには主にA型とB型があり、A型の方が重症化しやすく、B型は春にかけて流行することが多いです。
2. インフルエンザの感染経路
インフルエンザに感染した人の咳やくしゃみの細かいしぶきの中にはたくさんのインフルエンザウイルスが含まれています。それを他の人が吸い込んだり、口に入ってしまうとインフルエンザウイルスに感染してしまうのです。また、インフルエンザウイルスは非常に強力なので、ウイルスが、ドアノブなどに付着しても半日から1日は死滅しません。ウイルスが付着したドアノブなどを触って、それが口や鼻を通して体内に入ると感染してしまいます。
3. インフルエンザ対策 その1:持ち込ませない
介護施設でのインフルエンザの基本は、「持ち込ませない」ことです。そのためにできる対策を解説します。
3.1 予防接種の徹底
インフルエンザは流行期の前に、予防接種を行うことができます。もちろん、予防接種をしても感染する人や重症化してしまう人もいます。しかし、高齢者では予防接種をすることで、感染のリスクを半減させ、インフルエンザによる死亡を80%近く予防できるというデータもあります。入所者だけでなく、職員や職員の家族に対しても予防接種を勧めるのがよいでしょう。職員は、施設外での生活もありますから当然ながら感染の機会も多くなり、実は介護施設でのインフルエンザの発生源は職員によるものがとても多いのです。
ただし、インフルエンザワクチンは卵アレルギーがある人は接種することはできません。このような人に無理に予防接種を勧めるのはやめましょう。
3.2 面会制限
インフルエンザの流行期には面会制限を行うのもよい方法です。入所者にとって家族や友人との面会は楽しみの一つです。しかし、面会者がインフルエンザにかかっていることを知らずに施設内に立ち入ってしまうと、誰かに感染させる危険があります。特に、咳やのどの痛み、鼻水などの上気道症状がある人は面会を控えるように協力してもらうのがよいでしょう。
4. インフルエンザ対策 その2:広げない
次に大切なのは、インフルエンザを「広げない」ことです。インフルエンザはどんなに注意をしていても感染してしまうこともあります。大切なのは、1人のインフルエンザが出たら、それを広げない対策を徹底することです。
4.1 環境整備
職員にインフルエンザが出たら、人手が足りなくても皆で協力して休ませるようにしましょう。インフルエンザは発症してから三日目あたりが最も感染力が強くなり、解熱して3日ほどで感染力を失います。ですから、発熱してから3日は休んだ方がよいでしょう。中には、熱が出ないインフルエンザもあります。その場合には、のどの痛みやだるさなどが現れてから5日から7日は休むようにして下さい。
また、入所者がインフルエンザになった場合には可能なら個室に移し、ワクチン接種や既にインフルエンザに罹患した職員が対応するようにするとよいでしょう。個室がない施設では、インフルエンザの患者を集めた部屋を作ることで感染拡大を予防することができます。
4.2 感染予防
職員はインフルエンザ流行時期には必ずマスクを着用するようにしましょう。そして、手洗いや手指消毒を徹底すれば、感染を大幅に予防できます。入所者がインフルエンザになった場合には、可能な限り同室者もマスクを着用した方がよいでしょう。
また、インフルエンザウイルスは、50~80%の湿度では活性が弱まるといわれています。ですから、施設内では加湿器を用いて適度な湿度を保つことも大切です。
さらに、インフルエンザウイルスはアルコールで死滅しますから、ドアノブや蛇口など人の手が触れやすいところは通常の拭き掃除だけでなく、アルコール消毒をしましょう。
4.3 抗インフルエンザ薬の予防投与
インフルエンザには、タミフルやリレンザなどの抗ウイルス薬があります。これらの薬はインフルエンザに罹った人はもちろん、濃厚な接触があって感染が疑われる人に発症予防として投与することがあります。
日本感染症学会は、介護施設でインフルエンザが発生したときには速やかに入所者に抗ウイルス薬を予防投与することを推奨しています。これは、費用面や人手面で難しいことかも知れませんが、入所者のかかりつけ医や施設の嘱託医に相談するのがよいでしょう。
4.4 早めの受診を!
インフルエンザに限りませんが、入所者の体調変化があった時には看過せずに、病院受診するようにしましょう。インフルエンザは発症から48時間以内であれば、抗ウイルス薬に効果があります。また、肺炎などの重症化を防ぐこともできるでしょう。
5. インフルエンザ対策は一つ一つの積み重ね
インフルエンザ対策は一筋縄ではいかず、多くの対策を取らねばなりません。きちんと対策を取っていても施設内流行が防げないこともあります。 しかし、職員が一丸となって一つ一つの対策を丁寧に行うことで、そのリスクは大きく回避することもできるのです。ここでお勧めした方法をぜひ取り入れて、入所者と職員をインフルエンザの脅威から救いましょう。