第7期介護保険料全国平均と数字に隠れた実態
厚生労働省は、2018年度から2020年度までの第7期の計画期間に65歳以上の高齢者が支払う介護保険料について、全国1571保険者の動向を公表しました。介護保険料は、3年に1度のサイクルで市町村が策定する「介護保険事業計画」に基き見直され、今後3年間に見込まれる利用者数、サービス提供量、給付費などを弾き出し、それを支えるのに必要な金額を設定しています。
近年は少子高齢化による財源の確保が困難なことや、介護サービス利用者の増加、介護職員の処遇改善などに向けて介護報酬を引き上げた影響などにより、保険料が引き上げられるほか、自治体による保険料格差が課題となっています。
第1期の4倍に増額
第7期介護保険料は、全国平均で6期比6.4%(355円)増の5,869円になることが分かりました。厚生労働省によると、「これまでの余剰金を積み立てた準備基金を取り崩して伸びを抑えた保険者も少なくない」といいい、第5期から第6期にかけて、9割以上の自治体が保険料を引き上げたのに対し、第7期は全体の16.3%にあたる256保険者が据え置き、5.7%にあたる90保険者が保険料を引き下げるなど、若干の抑制が見られました。一方で保険料を引き上げた自治体が8割を占めるほか、月額6,000円以上の自治体が1割から6割になるなど、依然として増額傾向が見られます。
第1期から7期までの全国平均保険料推移
平均保険料 | 前年比 | |
---|---|---|
第1期 | 2,911円 | ― |
第2期 | 3,293円 | 13.1% 382円増 |
第3期 | 4,090円 | 24.2% 797円増 |
第4期 | 4,160円 | 1.7% 70円増 |
第5期 | 4,972円 | 19.5% 812円増 |
第6期 | 5,514円 | 10.9% 542円増 |
第7期 | 5,869円 | 6.4% 355円増 |
介護保険料3.3倍でもサービスの選択余地なし
介護保険料は自治体ごとに決められるため、隣接する市町村でも大きな格差が表れます。都道府県別で最も低いのは埼玉県の5,058円、最も高いのは沖縄県で6,854円です。市町村別では、一番低いのは北海道音威子府村の3,000円、最高は、福島県葛尾村の9,800円が最高でした。その差は3.3倍、6,800円の開きがあります。
北海道音威子府村の事情
音威子府村は北海道北部にある村で、2018年4月現在の総人口は700人強です。高齢化率は28.8%であり、道内179市町村中151位と、比較的低いのが特徴です。村内には道内唯一の工芸科を設置する「おといねっぷ美術工芸高等学校が全国から生徒を集めており、生徒・教職員で人口の約15%を占めることが、高齢化を引き下げる要因になっています。 村にある介護サービスは、居宅支援事業所と訪問介護のみと乏しく、給付も少ないことや、入院できる病院が100㎞以上も離れているため、要介護状態になる前に離村することから要介護認定率も8.0%と低く、介護保険料の抑制につながっています。
福島県葛尾村の事情
葛尾村は、阿武隈高地の中にある標高500m以上の高地に位置しています。2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故の影響により、村内全域が警戒区域又は計画的避難区域に指定され、全住民が村外に避難していました。 2016年6月12日に避難指示が解除されたものの、2010年に1,531人いた総人口は、避難等により239人に減少。被保険者数が限られているうえに、高齢化により介護認定率が高まったことから3倍の増額に踏み切り、日本一高い介護保険料を徴収する自治体になりました。
日本一高い介護保険を担保するほど介護サービスが充実しているというわけではありません。音威子府村の3.3倍もの介護保険料を払っているのに、葛尾村にあるのは音威子府村同様に社会福祉協議会が運営する訪問介護のみ。費用対効果の低さは否めず、多彩なサービスを組み合わせて在宅生活を送ることもままなりません。
今後必要なサービス量
厚生労働省は、第7期介護保険事業計画サービス量見込みなどの集計結果も公表しています。1ヵ月あたりの利用者数は、2017年度実績と比較して7期計画の最終年度となる2020年度は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が1.8倍、看護小規模多機能型居宅介護は2.6倍に拡大すると想定。団塊の世代が75歳となる2025年度推計では、それぞれ3.4倍、4.6倍を見込んでいます。その他のサービスで2020年度までに伸びが目立つのは、小規模多機能住宅が3割増、訪問看護・特定施設入居者生活介護が2割に増加しています。
介護サービス量見込み
2017年度実績値 | 2020年度推計値 | 2025年度推計値 | |
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在宅介護 | 343万人 | 378万人 (10%増) |
472万人 (24%増) |
ホームヘルプ | 110万人 | 122万人 (11%増) |
138万人 (26%増) |
デイサービス | 218万人 | 244万人 (12%増) |
280万人 (28%増) |
ショートステイ | 39万人 | 43万人 (9%増) |
48万人 (23%増) |
訪問看護 | 48万人 | 59万人 (22%増) |
71万人 (47%増) |
小規模多機能 | 10万人 | 14万人 (32%増) |
16万人 (55%増) |
定期巡回・随時対応型 | 1.9万人 | 3.5万人 (84%増) |
4.6万人 (144%増) |
看護小規模多機能 | 0.8万人 | 2.1万人 (172%増) |
2.9万人 (264%増) |
居宅系サービス | 43万人 | 50万人 (17%増) |
57万人 (34%増) |
特定施設 | 23万人 | 28万人 (21%増) |
32万人 (41%増) |
認知症グループホーム | 20万人 | 22万人 (13%増) |
25万人 (26%増) |
介護施設 | 99万人 | 109万人 (10%増) |
121万人 (22%増) |
特別養護老人ホーム | 59万人 | 65万人 (11%増) |
73万人 (25%増) |
介護老人保健施設等 (介護療養含む) |
41万人 | 43万人 (7%増) |
48万人 (18%増) |
今後も増額は続く
少子高齢化による、税収の減少と要介護者の増加により、今後も介護保険料が増額される一方で、利用基準が厳格化され、介護サービスの利用が抑制されるという矛盾の発生が予想されます。今後の介護サービス量見込みを見ても、資金と人材をどうしたら捻出できるのか。今後の成り行きが注目されます。