社会福祉士の独立開業と経営【インタビューあり】

社会福祉士の多くが、社会福祉法人や医療法人などに雇用される中、自ら社会福祉士事務所を設立し、組織の方針や決められた業務に縛られずに、地域を基盤としたソーシャルワークを目指している人たちがいます。「独立型社会福祉士」として成功するためには、何をすべきか。札幌市の社会福祉士事務所を取材しました。

 

独立型社会福祉士とは

「独立型社会福祉士」は開業している社会福祉士の通称であり、特別な資格名称ではありません。日本社会福祉士会には2018年7月現在400人以上が登録しています。また未登録であっても独立型社会福祉士を名乗ることができます。 社会福祉士事務所は、通常の個人事業所や法人設立手続きに乗っ取り開業することができます。また場合によって、開業資金として日本政策金融金庫や、民間の金融機関から融資を受けることも可能です。

 

おもな業務

社会福祉士の専門領域は広く、これまでに関わった職種別によって対象者や業務が異なります。全国的にみると、ケアマネジャー業務、成年後見人、講演や講師の3つを生業としている人が多く、就労者数は社会福祉士全体の2.5%を占めています。

 

社会福祉士が就労している分野(n=7,102)

職種別 就労率
高齢者福祉関係 43.7%
障害者福祉関係 17.3%
医療関係 14.7
その他 7.5%
地域福祉関係 7.4%
児童・母子福祉 関係 4.8%
行政相談所 3.4%
生活保護関 0.8%
無回答 0.3%

出典:「平成27年度社会福祉士・介護福祉士就労状況調査結果」((公財)社会福祉振興・試験センター

 

社会福祉士の勤務先(n=40,424人)

職種別 就労者数 就労率
社会福祉施設等 16,210人 40.8%
教育機関、一般企業、福祉公社,団体等 9,723人 24.5%
医療機関 4,091人 10.3%
地域包括支援センター 3,296人 8.3%
社会福祉協議会 3,069人 7.7%
行政機関 2,343人 5.9%
独立型社会福祉士事務所等 973人 2.5%

社会福祉事務所を訪問

社会福祉事務所の経営について、札幌市中央区で社会福祉事務所を開業している「さっぽろ社会福祉事務所」の大島康雄代表に話を伺いました。

■ 独立までのプロセス

大島氏は、医療機関MSWや地域包括支援センターのケアマネジャーなどで経験を積んだ後、社会福祉士会が実施する独立型社会福祉士研修を受けて、2010年3月に「さっぽろ社会福祉士事務所」を開設しました。開業に至った理由をこう語ります。 「地域包括支援センターに勤務していた時に、営業時間外にも相談があったものの、規則などにより、それを受けることができませんでした」。組織の枠を気にせず、人とかかわりたいと言う気持ちが、独立を決意させたと言います。

 

■ 矛盾を抱えたスタート

経営を軌道に乗せるためには、主軸となる事業が必要です。大島氏は、居宅介護支援事業所の委託を受け、ケアマネジャー業務を収益の柱としました。これまでの地域包括支援センター勤務で得たコネクションを生かし、順調に案件が増えていきました。
しかし忙しさに忙殺される中で、「これでは組織に所属していたころと同じだ」と気づいたと言います。新しい従業員を採用しても、教育などの時間を必要とするため、「自由を求めているのに、自ら制約を作っている」と言う矛盾を抱えながら、組織作りを行ってきたそうです。

現在は従業員数30人余りに拡大。職員が増えたことで、個人の活動として教育機関の非常勤講師や、成年後見人にも注力するなど、自分が思い描いていた福祉活動にシフトしているそうです。また、認知症キャラバンメイト、地域の福祉イベントの支援、男性介護者やその支援者をサポートする団体「北海道男性介護者と支援者のつどい」に参加するなど、ボランティア活動にも精を出しています。

 

ビジネスとして成立させるためには

大島氏の話を聞いて、「自分も社会福祉士事務所を設立して、理想の福祉を実現したい」と思った方は多いことでしょう。ビジネスとして社会福祉士事務所を成立させるためのポイントを伺いました。

 

■ 事業所の規模は身の丈に合わせて

事業を長く継続する場合と、定年後に数年間開業する場合では、ビジョンも資金も異なります。さっぽろ社会福祉士事務所は、居宅支援事業所や障害者総合支援法の相談事業の登録をはじめとした長期的なビジョンにより、法人としてスタートしましたが、事業規模が小さい場合などは、個人事業所として始めるのもいい。独立にあたり、どの規模の業務をいつまで行いたいのか、考えてみてください。

 

■ 設立費用は借金をする覚悟で

設立には、「仕事に責任を負う」、「借金を負う」の二つの覚悟が必要です。熱心に取り組んでいても、必ず事業が成功するとは限りません。どこまでなら借金を抱えられるか、また倒産した場合に返済できる金額であるかなど、お金に関することも考えなくてはなりません。

 

■ 主軸のある事業展開を

教育機関の非常勤講師などは初期投資が少なく済みます。また、市町村の地域包括センターの社会福祉士としての業務の委託を受けたり、クリニックのMSWを外部受注するのもいいでしょう。隙間狙いだけでは、埋まったときに身動きできなくなるので、必ず主軸となる事業を持つべきです。

 

まとめ

大島氏は社会福祉事務所の可能性を示唆しながらも、「開業前に、どれほどの年収になるかシュミレーションすべき」と警鐘を鳴らしてくれました。独立開業して成功するためには、社会福祉士としての業務スキルだけでなく、営業力や人脈、経営スキルも重要となります。最初に社会福祉事務所などに勤務し、それらのスキルを身に着けてから独立するのも一つの方法かも知れませんよ。

 

さっぽろ社会福祉士事務所

http://sapporo-fukushi.net/company.html

ケアマネジャーによるケアプランの作成、事業者との連絡調整・紹介等のサービス、成年後見制度などを行っています。お近くの方なら、お気軽に相談されてはいかがでしょう。

 

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