中小企業、社会福祉法人等に最大5000万円補助 ~東京都が地産地消型再エネ導入拡大事業~
東京都の小池知事は、就任後1ヵ月あまりの間に相次いで新施策を打ち出していますが、その中で「都民ファースト」の「2020年に向けた実行プラン」(仮称)の策定が注目されています。従来の「長期ビジョン」を見直し、新たな視点から既存の枠にとらわれない政策を積極的に展開するというものです。年内に実行プランの具体案が提示されますが、その一つ、「スマートシテイ」(環境配慮型高機能都市)に向けた再生可能エネルギー導入拡大事業の内容が明らかになりました。この事業は、小池都知事のもとでの初の再エネ事業となります。そこで、同事業の具体的な内容や従来の事業との違い、その意義などを見ていきます。
「セーフ」「ダイバー」「スマート」の3つの町づくり
都民ファーストの視点に立った「2020年に向けた実行プラン」は、今後の東京都政の具体的な政策展開を行うための指針ともなります。その基本的方向としては「セーフシティ」(安全・安心都市)、「ダイバーシティ」(多様性を尊重した都市)、「スマートシティ」の3つの町づくりが示されています。これらは東京都が抱える課題の解決やさらなる成長創出に役立てる新規性・先進性をもつ施策立案のベースとなるものです。
東京都にはこれまで、前都知事の舛添氏が2014年に策定した「東京都長期ビジョン」があり、向こう10年間を見据えた東京都の将来像を示しています。今回の「実行プラン」は、長期ビジョンに基づく現行の「3ヵ年実施計画」に代わる新たな計画として策定されるものです。長期ビジョンのこれまでの進捗状況や成果を検証するとともに、長期ビジョン策定後の社会・経済情勢や都民ニーズの変化を踏まえた形で策定されることになります。
都民の立場からより具体的に
「スマートシティに向けた再生可能エネルギーの導入拡大事業」では、従来の長期ビジョンで示された再生可能エネルギー事業をより具体的に、都民の立場に立った観点から、導入促進を図る施策が打ち出されています。従来の施策は、どちらかといえばマクロ政策の観点が重視されています。例えば、再生可能エネルギーの導入割合は、2012年現在で、都内再エネ電力の利用割合約6%を2024年までに20%に引き上げる目標を示しています。
また、分野ごとの個別目標として、2024年までに太陽光発電導入量を2012年度比約4倍に相当する100万kWの導入を目指すことにしています。
こうした目標実現に向けた具体策として長期ビジョンでは、太陽光発電について、住宅リフォーム時の導入支援、バイオマス・小水力では、食品廃棄物等の発電施設や区市町村の廃棄物発電施設の整備促進などが示されています。そのほか、太陽熱・地中熱では、認知度向上のための施策や、導入を促す基盤データの整備などを掲げています。
すべての民間事業者に3分の1の補助率
長期ビジョンにおけるそうした再生可能エネルギー導入対策に対して、今回打ち出した再生可能エネルギー導入拡大事業は、すべての再生可能エネルギーについて、導入規模に条件がありますが、中小企業、学校法人、社会福祉法人、公益財団法人のすべての民間事業者を対象に補助金を交付する点が特徴となっています。また、補助率は、対象経費の3分の1以内ですが、最高5000万円という金額も例を見ない大きな額です。東京都は9月7日に、同事業の具体的な内容を公表しました。公表内容によると、事業の名称は「地産地消型再生可能エネルギー導入拡大事業」とされ、新規事業となっています。「地産地消型」と特定することで、一般的な再生可能エネルギーと異なり、東京都内に自家消費型の再生可能エネルギー発電設備、熱利用設備を設置する事業者を対象としています。
具体的な再生可能エネルギーの導入規模の要件は以下の通りです。
▽太陽光発電(出力10kW以上) ▽風力発電(単機出力1kW以上)▽地熱発電(要件なし)▽小水力発電(単機出力1~1000kW 以下)▽蓄電池(再生可能エネルギー設備と同時導入)▽バイオマス発電(出力10kW以上)▽地中熱利用(熱供給能力10kW以上)▽外気との温度差を利用する温度差熱利用(熱供給能力10kW以上)▽太陽熱利用(集熱面積10平方m以上)▽バイオマス燃料製造設備及びメタン発酵設備等(バイオマス発電設備と同時導入)▽バイオマス熱利用(熱供給能力0.4GJ=ギガジュール以上)
都では、9月30日と10月5日に、東京都環境公社本社会議室(東京トラフィック錦糸町ビル8階)で、再生可能エネルギー導入希望者に対する説明会を開くことにしています。参加申し込みは、東京都地球温暖化防止活動推進センター(クール・ネット東京)ホームページから受け付けます。
太陽光偏重からバランスのとれた方向へ
東京都が、こうした新しい再生可能エネルギー導入拡大事業に取り組むことになったのは、国をはじめ、各地方自治体で実施されている事業は、大部分が、太陽光発電の導入に焦点を当てた支援事業であり、それ以外のエネルギーの導入は、それほど重視されていなかったことがあげられます。しかし、近年、再生可能エネルギーとしては、太陽熱や地中熱、バイオマス、小水力などの利用が盛んになっています。太陽熱は、低コストで簡単に設備を設置できるほか、バイオマス、小水力も、農山村地域などで、利用が広がっています。中小事業者にとっては、低コストで冷暖房エネルギーや自家用エネルギーとしての利用が可能であり、省エネルギーに効果があるためです。
国の再生可能エネルギー導入方針も、従来の太陽光発電に偏重した施策から、バランスのとれた再エネ導入の方向に変わりつつあります。
国の再生可能エネルギー導入支援策の大きな柱は、2012年7月から始まった固定価格買取制度(FIT制度)です。同制度は、太陽光、風力、バイオマス、小水力、地熱の5つのエネルギーによる発電電力を、電力会社が長期間、一定の価格で買い取る制度です。国は当初、太陽光発電の導入促進に重点を置き、電力会社の買取価格を高めに設定したことから、導入量が急増、電力系統への接続が困難になる事態が生じました。また、買取量の急増により、買取費用として電力料金に上乗せされる再エネ賦課金額が増大、国民の負担を急増させるという問題を招きました。
太陽光発電に偏重したFIT制度は見直しを余儀なくされ、経済産業省では、太陽光発電の買取価格の引き下げを進める一方、再生可能エネルギーのコスト低減を促進することで、「将来的にはFIT制度から卒業し、自立的な導入を図っていくことが重要」としています。
国の政策を東京都が先取り
再生可能エネルギーの自立的な導入について、経済産業省は「地産地消型エネルギーシステムの構築が望ましい」としています。地域で生み出されるエネルギーを地域内で利用することは、エネルギーロスの低減と同時に、地域サービスとの連携による地域活性化につながるためです。そのため、国の再エネ導入の支援策としては、今年度から予算化された「先導的な地産地消型エネルギーシステムの導入支援」などのように、地域での再エネ利用に支援の重点が置かれる見通しです。東京都の「地産地消型再生可能エネルギー導入拡大事業」は、そうした国の政策を先取りした施策といえます。
まとめ
地産地消型再エネ導入は、国、自治体ともに、太陽光発電のような電力系統に連系するエネルギーだけでなく、太陽熱や地中熱などの熱エネルギーの利用、小水力やバイオマスなどの地域資源の利用に重点を置いたエネルギー導入に移行する見通しで、電力系統連系による負荷をできるだけ軽減する方向が求められているようです。