混合介護で広がるビジネスチャンス
注目される混合介護
現在、東京都豊島区は国家戦略特区を使った「混合介護」導入を検討しています。混合介護とは「訪問介護を行った後に、引き続き家族のための料理を作る」など、従来の介護保険サービスに保険外のサービスを併用することです。
これまでも混合介護は禁止されていませんでしたが、ほとんど普及していません。その理由として「介護保険サービスは、その他のサービスと区別して行わなければならない」という決まりにより、介護保険サービスを行った後に引き続いて保険外サービスを行うことが困難でした。混合介護を行うためには、時間をあらためて訪問し直すか、別の職員を派遣するなど効率が悪いことが普及を妨げる最大の要因です。
豊島区が特区申請
豊島区が検討している混合介護は、政府の国家戦略特区を使い、介護保険サービスとその他のサービスを一体的に提供できるよう規制緩和を図ろうとしています。今後、介護事業者からの聞き取りを開始。有識者会議を設置するなど利用しやすい方策などを検討する予定です。全国初となるこの取り組みが認められ、実績が上がれば全国的な広がりを見せることが期待されます。
介護保険が担保しているのは「介護」の範疇のみで、その他の生活にまでは関与していません。例えば「一人で食べるのは寂しいので、一緒に食事をしてほしい」「趣味や娯楽のために外出に付き添ってほしい」「同居人の食事も一緒に作ってほしい」など、介護から外れる業務や契約者以外にサービスを行うことができないのです。しかし混合介護の規制が緩和されると、これらを介護サービスと一体的に「有料」で行うことができるのです。
混合介護に対する現場の声
<賛成意見>
・多くの選択肢がある方が、より良い介護につながる
・生活の必要性に合わせて可能であれば利用していくことで個人の望む生活が継続できる
・医療でも保険外がある訳だから、介護保険内・外の混合介護を実施しない理由が分からない
賛成意見は、選択肢の幅の広がりが、個々のライフスタイルを充実させるといった個人の尊重であったり、社会的な流れとして当然という受け止め方をしている傾向が見られます。
<反対意見>
・利用者が混乱し、線引きが難しくなる可能性がある
・支払いの計算が複雑化して事業所や利用者が混乱すると思う
・大幅に介護スタッフが不足している現況の中で、複雑な介護体制にするには無理がある
反対意見は、サービスが複雑化することでの説明や支払いの混乱、人員不足による対応難といったサービス提供者側の事情を反対理由としている傾向が見られます。
混合介護反対は前近代的発想?
混合介護には、このような反対意見もあります。
・介護の質の公平さが図れなくなる
・事業者が保険外の高額なサービスを優先し、保険内の介護を十分に提供しない
・悪意のある事業者が不当に高いサービスを利用させる
・高齢者が過度に介護サービスに依存して自立支援を妨げる
高齢者福祉から介護サービスに転換された時点で、介護は福祉ではなくビジネスになりました。競争の原理に必要なのは「公平性」ではなく「差別化」です。また、介護保険外のサービスが高額化するとは限りません。介護保険のように安定価格でない分、むしろ価格競争の中でダンピングされるのではないかと危惧されます。「介護サービスに依存する」に至っては「人が歩かなくなるから車を廃止しよう」といっているのと同じ。依存するかどうかは、事業者ではなく利用者自身が決めることです。
混合介護への懸念については、政府は基準を満たさない事業者に混合介護を認めない方針を打ち出したり、豊島区では「保険内サービスを単体で一定割合以上こなす」との要件を事業者に課すなど、利用者保護のため一定の規制を設けることを予定しています。
経営者は最初のペンギンになる勇気が必要
ペンギンの習性として「ファーストペンギン」という行動があります。ペンギンにとって海はエサを取るための大切な場所であると同時に、アザラシなどの天敵もたくさんいるため、多くが飛び込むことを躊躇します。最初に勇気ある一匹のペンギンが飛び込み、無事に戻ってくると、安心して他のペンギンも飛び込むそうです。
高齢者福祉の幻影を引きずったままなのか、新しいビジネスに飛び込むファーストペンギンになるのか。生き残りは経営者の決断にかかっているといえるでしょう。