在宅でも施設でも活用できる感染症予防の基本対策
高齢者は特に大きな病気をしていなくても、徐々に免疫力が低下し、様々なウイルスや細菌に感染しやすくなります。中には感染しても全く問題のない病原体もありますが、多くのウイルスや細菌では発熱や嘔吐・下痢といった消化器症状、インフルエンザのような上気道炎などが引き起こされます。
体の弱った高齢者はこれらの感染症にかかると重症化し、最悪の場合は生命の危機に陥ることがあります。ですから、感染症は可能な限り予防したいものですね。
ここでは、在宅や施設での介護現場で活用できる感染症対策の基本をご紹介します。
1. 感染経路のイロイロ
介護現場で重要な感染症対策は、介護者が感染症になって病原体を持ち込まないこと、万が一持ち込まれたとしても病原体を高齢者に取り込ませない、の二点に尽きます。
ウイルスや細菌にはそれぞれ特有の感染経路があり、対策方法も感染の仕方によって異なります。介護の現場で生じやすい感染様式は大きく分けて4つありますが、それぞれどのような感染経路を辿るのか、詳しく見てみましょう。
飛沫感染
多くのウイルスや細菌は飛沫感染をします。
飛沫感染とは、ウイルスや細菌に感染した人の咳やくしゃみの飛沫の中にはウイルスや細菌がたくさん含まれており、それを近くにいる人が吸い込んでしまうことで感染することです。飛沫はウイルスや細菌と共に多くの水分を含むため、飛散距離は半径2m以内と、近い範囲のみで問題となる感染です。
飛沫感染をする代表的な病原体は、インフルエンザウイルスやノロウイルス、ライノウイルスなどの一般的な風邪症状を起こすものや、マイコプラズマや肺炎球菌など多くのものが含まれます。
接触感染
飛沫感染同様、多くのウイルスや細菌は接触感染をします。
接触感染とは、飛沫や便などに含まれるウイルスや細菌がドアノブや手すり、便座などの人の手が触れやすいところに付着していて、それを他者が知らずに触って体内に取り入れてしまうことで生じる感染です。
接触感染をする代表的な病原体は、インフルエンザやノロウイルスなどであり、高齢者で問題になるMRSAなどの薬剤耐性菌も接触感染を起こします。また、疥癬や流行性角結膜炎など様々な病気が含まれます。
血液感染
血液感染は接触感染の一種ですが、血液中に潜むウイルスに触ることで感染するものです。
血液感染を起こす病原体は表皮に付着しただけで感染するのではなく、指先に傷があるとその間の粘膜から体内に侵入して感染を生じます。ですから、粘膜に触れなければ問題はないのですが、人の手や指は本人にも気づかない微小な傷がたくさんありますので感染の可能性は誰にでもあるのです。
また、医療行為を行う介護施設で問題になるのは針刺し事故です。
血液感染をする代表的な病原体は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、梅毒トレポネーマ、HIVです。特に肝炎は高齢者の感染率が高く、感染すると肝硬変や肝がんに進行することがありますので注意が必要です。
空気感染
空気感染は、空気中を漂うウイルスや細菌を吸い込むことで感染することをいいます。
飛沫感染では飛沫の飛散距離の範囲外にいる場合は感染する可能性は低くなります。しかし、空気感染は病原体が空中を待っている状態であり、同じ空間を共有しているだけで感染してしまう可能性があるのです。
空気感染をする代表的な病原体は結核菌や水痘ウイルス、麻疹ウイルスなどです。また、一般的に飛沫感染や接触感染を起こす病原体も、空気が乾燥した室内などでは病原体に含まれる水分が即座に蒸発して空気中に舞い上がり、空気感染を起こすことがあります。ノロウイルスは吐物からウイルスが舞い上がり、空気感染を起こすことで有名ですね。
2. それぞれの感染予防策~介護の現場で~
このように、介護の現場で問題となる感染症には4つの経路があります。当然ながら、経路が異なりますので、その予防策も大きく異なります。介護の現場で大切なそれぞれの感染予防策を詳しく見てみましょう。
飛沫感染
飛沫感染の予防として、感染者の半径2m以内に近づかないことが挙げられます。しかし、介護の現場では介護を受ける側とする側は密着した体勢を取ることが多く、施設の入所者同士も食事時などは近い距離に居合わせます。ですから、感染者に近づかないという予防策は非現実的です。
そこで重要なのは、近くにいたとしても飛散した飛沫をしっかりブロックすることです。そのために最もおススメする予防策はマスクの着用です。飛沫はマスクを通り抜けることはできませんから、適切に着用できていれば飛沫感染の大部分を予防することができます。また、感染者にもマスク着用の協力を得ることも大切です。
「病原体が含まれた飛沫を出さない、取り込まない」対策を徹底して行いましょう。
接触感染
接触感染予防の基本は、病原体を除去することです。在宅での介護でも施設でも、感染者がいる場合には、空間内を完全に除菌することは不可能です。しかし、ドアノブや手すり、電気スイッチ、便座、ペーパーホルダーなどの人の手に触れやすい場所には様々な病原体が感染者の手指を介して付着している可能性が高く、こまめに除菌することが必要です。
一般的な病原体はアルコールで除菌できますが、ノロウイルスなど一部の病原体では、アルコールが効かず、塩素系の消毒液が必要な場合もあります。その時期に流行している感染症に合わせた除菌方法を確認しておきましょう。
また、手洗いも接触感染対策には非常に重要となります。感染者がある環境では完全に病原体を除去することはできないため、手に付着した病原体をしっかりと洗い流す必要があります。
おススメの手洗い方法は、お湯と薬用せっけんを使用することです。特に食品を扱う場合や配膳や食事介助を行う前には二度洗いした方がよいでしょう。また、手洗いの後にアルコールで手指消毒することも効果的です。
血液感染
血液感染は血液に触れないようにすることが最も有効な対策です。しかし、介護の現場では、高齢者が思わぬ転倒をして傷口からの大量の出血や鼻血を出す機会も多いでしょう。介護をする以上、血液との接触は避けて通れないものです。
ですから、血液に触れるときには必ず使い捨ての手袋を着用し、血液を拭くときはタオルなどではなく、できるだけ使い捨てのペーパータオルなどを用いるようにしましょう。直接血液に触れないように注意するだけで血液感染はほぼ防ぐことが可能です。
また、確率は低いですが、ウイルスを含んだ血液が目の中に入ることでもあります。血液の処理をするときのために専用のゴーグルを用意しておくとよいですね。
さらに、B型肝炎にはワクチンがあり、予防接種を受けることで感染を防ぐこともできます。介護施設の入職者には予防接種を受けることもおススメです。
空気感染
空気感染を生じる病原体は非常に小さく、通常のマスクを通過してしまいます。空気感染を予防するためのN95という特殊なマスクがありますが、一般的な施設や家庭では常備されていないことも多いでしょう。
しかし、万が一結核や麻疹などの空気感染を生じる病気の可能性がある人を介護している場合には、正確な診断が下されるまでは個室管理を行い、接触を最小限にして、接触したとしてもN95を使用するようにしましょう。
また、空間中に漂っている病原体は換気を行うだけで排除することができ、消毒は必要ありません。冬でも2~3時間に一度は窓を開けて換気を行うようにして下さい。
3. まとめ
介護の現場で問題となる感染症には4つの感染経路があります。それぞれの特徴をよく理解し、病原体を持ち込まない・取り込ませないためにはどのようなことに注意すべきなのかを覚えておきましょう。
感染症は厄介なものですが、予防することが可能な病気でもあります。高齢者を感染症から守れるのは介護者だけです。あなたの予防で高齢者の健康を守りましょう。