働き方改革で残業代が減った場合の対応
G社は従来、月間60~70時間の残業が状態化していた社員数100名の地方の製造業である。しかし、社長の決断で、働き方改革を断行した。徹底的かつ莫大な省力化投資を断行すると同時に、業務を整理して、大幅に派遣社員を増やした。すると残業が見事に減った。今では月間20時間程度である。働き方改革成功である。諸々の事情で利益が大幅に増えたわけではなかったが、賞与では社長も還元を表明し、前年の1.3倍程度の賞与増額となった。しかし、社員から猛反発。「月々の生活が苦しい」「給与をあげてほしい」「いま、外部労組に相談している」などの声が鳴りやまない。
中小企業の働き方改革が進まない理由の一つに残業代がある。残業代が生活費に組み込まれている。いわゆる「生活残業」である。法律が変わるというけれど、残業代がなくなったり、減ったりするのは勘弁してほしいとの声があちこちで聞かれる。残業が多すぎるのも採用に悪影響だ。しかし、残業がほとんどなく、所定内賃金が高くない場合も採用に重大な悪影響がある。
中小企業はそもそも賃金ベースが低く、残業代で食べているという感が否めない。食える賃金というのは「残業代込み」の話なのだ。
ここで経営者は対策にせまられる。上記のG社は結局、激変を緩和するための手当を経過的に設けざるを得なくなった。
対策とはどのようなものだろうか?
前提として、社長が働き方改革の実現と同時に、「処遇に関する方針」を明確に打ち出す必要がある。社員は働き方改革の末に自分たちの幸せがあるのだろうか、常に疑心暗鬼なのだ。
その1 残業代が減った分、賞与で還元する
これは当然の話で、このような話をしてもなかなか社員は動かない。月々の手取りが減ることに猛反発される。もともと賃金ベースが高い大手企業や役所なら通じる話。
その2 賃金ベースをあげる
これが最も簡単な話だが、そう簡単にできる話でもない。事業と組織の未来を見据えた中長期的な周到な準備が必要となる。
したがって、昨今の採用市場を勘案して、35歳未満の若手を中心にベースアップを行わざるを得ない(これは8割の中小企業が程度の差こそあれ実行している)
その3 ノー残業手当
たとえば、15,000円/月をノー残業手当として支給する。残業がなければ、15,000円を支給する。残業があって残業代が10,000円となれば、ノー残業手当を5,000円支給する。残業代が15,000円以上であれば、ノー残業手当は不支給となる。
その4 副業を容認する
もともと、中小企業の社員は結構な確率でこっそりと副業していたりする(ドライバー、ホステス、製造ワーカー等)。副業は福田事務所がお勧めしている対策ではないが、チラホラと出てきている。「賃金ベースが上げにくい」+「残業代が激減している」ことへの社員の不満を避けるための苦肉の策にみえる。厚生労働省も働き方改革を推進する一方で副業も推進しようとしている。今後も出てきそうな予感だ。
その5 賃金制度を抜本変更する
多くの企業の現行の賃金制度の根本発想は「平成」どころか「昭和」である。若いときに賃金が低いことを我慢して、年をとったらそのパフォーマンスに比して高めに賃金を受け取れるのだ。しかし、いま時代は「同一労働同一賃金」の方向へ確実に動いている。新卒初任給が25万円や27万円などもでてきた。また、管理職といわれる方へ残業代支払いも無視できなくなった。従来の「職能資格制度」的な賃金システムは「同一労働同一賃金」「残業問題」には太刀打ちできない。抜本変更して「デザイン」し直す必要がある。
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