ヨットマンが衛星測位で世界一の高みに
大洋を疾走するヨットでは、位置情報を素早く正確に把握することが欠かせない。位置情報を誤ると遭難事故に直結する。「GPSという、世界中のどこでも直ちに測位できるシステムが開発されていることを知り、この技術に深く関わりたいと思った」。そう振り返るのは、ヨットレースで何度も日本一になった筋金入りのヨットマンである岸本信弘氏。昭和62年、岸本氏は今日の衛星測位システム会社マゼランシステムズジャパン(兵庫県尼崎市)の前身となる企業を立ち上げる。以来、関連技術を深掘りし続けて、「測位感度と測位精度の高さでは世界一」(岸本社長)と自負するまでに会社を成長・発展させる。
昭和62年の創業は、米国のベンチャー企業が世界で初めて携帯型GPS受信機を発表するとの情報を米国のヨット仲間から知らされたのがきっかけ。同ベンチャーの代理店業務に乗り出して、その縁から、現在のマゼラン社の技術開発を担うのは、当時のベンチャーのエンジニアたち。その顔ぶれが並みではない。「ロシアと米国が主な拠点で、ロシア科学アカデミーの教授クラスが少なくない」(同)。宇宙・衛星関連技術で世界最高峰に君臨するロシアの頭脳が、同社の“感度・精度で世界一”の裏付けとなっている。
同社では衛星測位システムに関するさまざまな技術・ノウハウを、顧客ニーズに基づき最適化を施して提供する。開発したシステムは、米国GPSのほか欧州ガリレオ、ロシア・グロナス、日本のみちびきといった各国の衛星すべてに対応するという。目下、力を入れているのが、無人走行のロボットトラクター向けシステム。大手農機メーカーと共同開発を進めており「作業の効率化を図り、儲かる農業を可能にするもので、農業の6次産業化にもつながる」(同)。
次なる市場として、工場や空港の搬送ロボット、電動車椅子やパーソナルモビリティーなどに狙いを定め、すでに、大手電機メーカーや大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との開発プロジェクトが動き出している。「屋外だけでなく屋内もシームレスに高精度で測位できるシステムの事業化を目指している」(同)とする同社は、数年後のIPO(株式公開)を計画している。
岸本社長は大学の理工学部を中退し神学部に入り直した経歴の持ち主。子供の時から慣れ親しんでいるヨットについて「沖合8キロ、10キロまで来ると、陸が全く見えず、そこには有史以前の世界が存在する。そんな中で、嵐に揉まれたりして、ギリギリの体験をすると、自分が必要なら神様は生かしてくださるといった気持になる」という。そうした経験も、神のように宇宙から地球を俯瞰する人工衛星への興味・関心を掻き立てたのかもしれない。神のご加護を得て、さらなる飛躍を図るか…。(編集子)
e-中小企業ネットマガジン(中小企業基盤整備機構発刊)より