高齢者雇用安定法改正によるシニア人材活用で人手不足は解消できるか?
企業には希望する人全員の65歳までの雇用が義務づけられていますが、政府は全世代型の社会保障制度の実現に向け、70歳までの就業機会を確保する制度案を示しています。慢性的な人手不足である介護施設において高齢者は労働力として期待できますが、心身の衰えなどにより事故が発生する危険も懸念されます。高齢者雇用について検証しました。
シニア人材の採用が避けられない時代が到来
安倍総理は未来投資会議で、「70歳までの就業機会の確保を図り、高齢者の希望・特性に応じて多様な選択肢を許容する方向で検討したい」と表明しました。内閣府は65歳から69歳で「収入を伴う仕事がしたい」「続けたい」と答えた人は半数以上の65.4%と報告。現在65歳と定めている継続雇用の義務付けを70歳まで引き上げることで、高齢者の就業機会を確保したい考えです。
もちろん「高齢者の就業機会の確保」は建前で、国策の失敗のツケが国民に回されたにすぎず、社会保障費の抑制や税収を確保したいなど、国の事情が透けて見えます。いずれにせよ貧富の差の広がりや深刻な人材不足となる日本では生涯働き続けなくてはならない人が続出し、シニア人材の採用が避けられない状況になることでしょう。
高齢者施設における中高年齢職員活用のポイント
①介護施設は多様な年齢構成であることが重要
生活歴や経験、年齢などが異なる入所者に対応するためには、介護職員も多様な経験と知識を有していることが大切です。ケアの質の 向上を目指していくためにも、中高年齢者がバランス良く配置されていることが必要であると考えられます。
②既存職員の継続雇用による中高年齢者の活用
今後は定年の引上げや定年の定めの廃止や段階的な継続雇用制度を導入することが求められます。定年制(65 歳未満)のある施設では、施設経営やケアの質的向上に寄与することを目的に、勤務延長や再雇用で継続雇用を行い、定年後も活躍してもらえる仕組みを作ることが必要です。また、継続雇用のための基準や雇用条件を決め、対象者の事情に応じ多様な働き方を可能とするために、パートに移行しての短時間勤務や隔日勤務の導入など様々な工夫も行うべきでしょう。
③経営の質、サービスの質の更なる向上のための外部の中高年齢者の活用
サービスを提供する事業者として自立していくためには、民間企業の離職者や退職者層など専門性を持った人材を採用するなど、これまで以上に経理、人事労務、リスクマネジメント等の管理能力が求められます。
中高年齢者雇用の実現に向けて
中高年齢者が働く目的は、「生活の維持」「家計の足し」「生きがい、社会参加」「時間の有効活用」など様々で、短時間労働を希望する人と一 般の労働者と同様に働きたい人に分かれます。前者は、労働時間、ワークシェアリングな どの働き方を工夫するとともに、福祉用具の利用などによって身体面でのハンディをカバーすることが求められます。後者は長く働き続けるための支援や制度が不可欠となります。多様な雇用形態の提供 などの工夫によって、中高年齢者雇用を実現してください。
①採用の方法の工夫
公募や求職者の紹介機関などにより、専門的な知識をもつ人材を集める。
②勤務日数、就業時間の工夫
業務が集中して発生する時間帯のみ中高年齢者に働いてもらうなど、多様な働き方のニーズに合わせて、勤務日数や就業時間を調整する。
③担当職務の工夫
ベテラン中高年齢者には「食事介助」「話し相手」「処遇の困難な事例への対応」など、未経験の中高年齢者には「掃除」「洗濯」「配膳」「運 転業務」「話し相手」など、本人の能力に応じた業務を分担する。また、直接的な介護業務がない時間帯に利用者とのコミュニケーションを取りながら、これまで対応していなかったような細やかなニーズに応えたり、職務のない時間帯を中高年齢者に適した新たなサービス対応のために活用するなど、サービスを向上させることも中高年齢者の稼働率を向上させます。
④処遇面の工夫
おもに次の2つからの選択になります。
- 職務職能給ベースとしつつも定年制は継続。定年後は嘱託職員として有期契約、固定給または時給制とし、正職員とは異なる雇用・賃金体系とする。
- 職務職能給をベースとし、年齢は雇用・賃金体系とさほど関係がない個人の適性や能力に応じた処遇にする。
⑤働きやすい職場環境の工夫
中高年齢者が働き続ける上で身体的な面での負担がネックになります。 身体負荷の軽い部署に配置転換するとともに、福祉用具(自助具)等を活用するなど、身体負荷の程度を改善させる工夫が必要です。
高年齢者を雇用する企業への支援策
厚生労働省は高年齢者を積極的に雇用する企業に対して次のような助成金を支給しています。高齢者の採用を検討している事業所は、活用してみてはいかがでしょうか。
高年齢者雇用安定助成金
高年齢者の活用促進のための雇用環境整備の措置を実施する事業主や、高年齢の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して助成されます。助成には次の2つのコースがあります。
高年齢者活用促進コース
特定の高年齢者活用促進の措置を内容とする環境整備計画を作成し、計画を実施することで受給することができる。
高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する無期雇用転換計画を作成し、その計画に基づき無期雇用転換措置を実施することで受給することができる。
特定就職困難者雇用開発助成金
60歳以上65歳未満の高年齢者等の就職困難者を、ハローワーク等の紹介により継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して助成されます。
高年齢者雇用開発特別奨励金
雇入れ日の満年齢が65歳以上の離職者を、ハローワーク等の紹介により、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者として1年以上継続して雇い入れる事業主に対して助成されます。
65歳超雇用推進助成金
労働協約や就業規則により、65歳以上への定年の引き上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入のいずれかを導入した事業主に対して助成されます。
高齢者の雇用は慎重に行う
少子高齢化により今後経済成長が見込めない日本において、高齢者雇用の推進は「苦肉の策」であり、人手不足の介護業界においても高齢者の採用は「やむを得ない」と言ったところでしょう。もちろん高齢者を雇用するメリットはありますが、判断能力の衰えにより大きな事故を起こす危険もはらんでいます。高齢者を雇用する場合は、そうしたリスクも念頭に置いて十分に検討してください。
出典: 老人福祉・介護事業における 中高年齢者活用のあり方
www.jeed.or.jp/elderly/research/enterprise/om5ru800000043rp-att/om5ru800000043tm.pdf
事業主の方のための雇用関係助成金
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
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