植物が持つ力が心を癒し心身の改善を促す 園芸療法の有効性

人が植物に触れることで五感が刺激され、精神や健康が回復する効果があります。植物が持つ力を利用したセラピーは「園芸療法」と呼ばれ、おもに欧米で実践されています。国内でいち早く園芸療法に取り組み、さまざまな分野で効果を立証している「NPO法人 日本園芸療法士協会(札幌市)」理事長の瀬山和子氏に詳しい話を伺いました。

 

園芸療法とは

園芸療法は、アメリカやヨーロッパの医療や福祉の現場で取り入れられているリハビリテーションの一つで、人間と植物の関係において互いの感覚を交換することで心身の健康を回復していくセラピーです。植物などを育てるプロセスを通じて、身体的・精神的・社会的な回復や改善が期待できます。日本では、高齢者の認知症などの進行を阻み、青少年においては自然を通した情操を高めて非行等を抑制するなど、社会福祉事業や更生保護事業に寄与するほか、一般の人々のQOLの向上や教育現場でも実践されています。

 

園芸療法士とは

1970年代にAHTA(アメリカ園芸療法協会)が設立され、園芸療法士の育成が行われています。日本では大学・短大・各種学校や各団体によって独自に資格が授与されています。現段階では園芸療法士として独立した業務を行うことは困難ですが、看護師や介護福祉士、理学療法士や作業療法士など関連職種が資格を取得し、高齢者領域、障害者領域、医療領域、更生施設などにおいて、リハビリや癒しへの手法として植物とのかかわりを生活の中に取り入れることを提案しています。

日本園芸療法士協会は、いち早く園芸療法士の育成に取り組み、内閣府総理大臣認定のNPOとして園芸療法士を認定しています。資格取得には療法関係・園芸関係・医学関係・福祉関係など21科目(630コマ)・58単位を履修する必要があるなど、正園芸療法士としての知識が担保されています。

 

特定非営利活動法人 日本園芸療法士協会の歴史

理事長を務める瀬山和子氏はフラワーデザイナーとして活動するほか、植物が人に与える効果を地元の大学で教授していました。1998年にシカゴ植物園でジーンロバート博士に出会い、「札幌の植物とそこで生活する人々の関係を作り、植物の生きる姿を通じて心と身体の回復を独自に作り上げることが大切である」と教えられたのが法人設立の後押しになったと言います。

帰国後、札幌で日本園芸療法士協会の原型となる活動を開始。その後、アメリカで園芸療法を実践しているカンザス州立大学のマットソン教授からマンツーマンで園芸療法を伝授されて弱者への園芸療法をめざすなど、現在の方向性が確立します。2006年10月1日より障害者自立支援法が施行されたことを契機に社会参加の園芸療法の一環として、2007年9月7日より指定就労継続支援(A型)事業を開始しました。

 

園芸療法の実践

園芸療法は農作物を栽培するだけではなく、土の匂いや新緑の香り、成長を待ちわびる気持ちなど、植物に触れることで人間の五感を刺激し、健康を回復していく療法です。日本園芸療法士協会では、精神に障害を抱える方などが利用するほか、少年犯罪の更生も行っており、それぞれに合った園芸療法を実施しています。

瀬山理事長は、「犯罪に手を染めてしまう子どもたちは、家庭環境に問題がある場合が多く、愛情や生きるためのお金を求めています。さまざまな能力を持っているにも関わらず、法に触れる事柄で力を発揮した結果が犯罪という形として現れている」と言います。

同協会は日本で初めて「イネーブルガーデン」を開園しており、少年たちは自然の中で更生に向かいます。土に植えた花を自分に見立てて、スクスクと育つように関わり、大木を父親、花を咲かせる木を母親に見立てて会話をさせます。そうした活動によって心の澱が少しずつ減っていき、約3か月後には更生できると言います。

 

支援する側から支援する側に変ることも

札幌市内各地に障害者が就労する店舗「ピアハーブ」も開業。生け花や野菜、果物などを扱うほか、菓子やパン、弁当や総菜なども製造・販売しています。「パンやケーキに使う小麦粉も植物です。毎日それらに触れることによって五感が刺激されます」と言います。自信の回復とともに投薬量が減っていき、支援される側から同協会のスタッフとして「支援する側」になる人も少なくありません。

認知症状の高齢者にも「体を動かす」、「やらなければいけないことを作る」、「会話を増やす」「自然を感じる」といった刺激を与えることで、笑顔を失っていたアルツハイマー症の方の表情が柔和になったり、記憶が鮮明になるなどの効果が現れているようです。一過性の園芸療法では、すぐにもとの状態に戻ってしまいます。「部屋の中全体に植物を配すなど、園芸療法を継続できる環境が必要」と、園芸療法士が介入するメリットを強調しました、

 

科学の時代に自然の力で安らぎを

ガーデニングや森林浴など、植物が人間に与える安らぎは、誰もが感じることだと思います。植物と触れ合うことは手軽にできますが、園芸療法士の技術と知識を持つことで、より効果的なセラピーが期待できます。事業所サービスの付加価値や、個人のスキルアップの一つとして導入・取得してみてはいかがでしょうか。

 

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吉田匡和

介護ライター 福祉業界では20年のキャリアを誇り、福祉系専門学校教職員、老人保健施設相談支援員、特別養護老人ホーム・デイサービスセンター生活相談員、特別養護老人ホーム事務長として勤務。退職後はフリーライターとなり、WEBを中心に活動している。社会福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターの資格を保有。 https://buleorca.webnode.jp/

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