入居者死亡相次ぐ?有料老人ホーム「風の舞」で何が起こっていたのか

鹿児島県鹿屋市の住宅型有料老人ホームで、8~9月の1か月間に介護職員全員が退職し、その後約1か月間に入居者40人のうち、6人が相次いで亡くなる事故が発生しました。現在、県などが立ち入り検査を行い、運営実態などを調べています。現時点での情報を整理するとともに、課題を抽出しました。

 

介護職員が全員退職、夜間は施設長一人が対応

県の立ち入り検査を受けたのは、住宅型有料老人ホーム「風の舞(定員55人)」です。同ホームでは8~9月に夜勤手当の額を巡り労使が対立。夜勤の手当を1万円から7千円に引き下げる提示をしたことや人間関係の悪化を理由として、8月末に5人、9月20日に3人が退職し、介護職員がゼロになりました。その後求人を出したものの補充できず、日中は系列のクリニックから看護師と准看護師各2人を派遣して対応し、夜間は施設長がほぼ1人で対応していました。

10月上旬に「施設で死亡した人がいる」と、外部から県に情報提供があったため、県は11月9日に施設側から事情を聴き、16日に老人福祉法に基づき立ち入り検査が実施されました。10月から11月半ばまでの約1カ月間に、当時の入居者約40人のうち6人が相次いで死亡していることが判明しました。

死亡したのは、ほぼ寝たきりの85~97歳の女性でした。要介護度は2~5。うち5人は点滴で栄養を摂取。死因は2人が老衰、残る4人は腎不全と心不全、消化管出血、誤嚥による窒息で、死亡診断書はすべてグループを統括する「風の村クリニック」の院長である波江野力(つとむ)医師が書いていました。

 

「医療サービスの不十分さは全くない」

21日に波江野力医師と波江野満(みつる)施設長が記者会見を開き、「医療サービスの不十分さは全くない」と責任を否定。「特別養護老人ホームなどで受け入れない末期がん患者など終末期の高齢者も受け入れており、多い月は2~3人が亡くなることがあったものの、国のガイドラインに従い家族の同意を得て看取っていた」と説明しました。

波江野医師は、労使間のトラブルによって8人の介護職員全員が8~9月に辞めたために夜間の対応を施設長1人で行っていたことを認めたうえで、現在は看護師4人が交代で昼の介護を代行しており、「入所者の医療面については、医者と看護師が24時間呼び出しに対応できる状態で、これだけやっていて文句を言われる筋合いはない」と話す一方、介護面のサポート体制の低下を認めたうえで、「人がいた方がいいに決まっている」と述べました。6人の死亡時間についても質問が相次ぐと、「記憶では、4人の死亡が(施設長が1人だった)夜間から早朝だった」と述べました。「夜勤に当たる人をもう少し増やせば防げたのではないか」との質問には、「結果論ですから」と濁しました。

 

問われる有料老人ホームの安全性

有料老人ホームの職員数の変更などがあった場合は老人福祉法に基づき、都道府県に変更届を提出する義務があるものの「風の舞」は変更届を提出していませんでした。県が11月9日に施設から事情を聴いた際も変更届を提出するよう求めましたが、21日の時点でも提出されていないといいます。

検査に同行した鹿屋市によると、同施設は定員55人で現在の入所者は31人。立ち入り検査の時点でも介護職員は補充されておらず、入居者3人に褥瘡ができていたといいます。ただし手当てが施されており、直ちに虐待と認める状況にはないとしています。

また、県が立ち入り検査を実施した当日に、6人とは別の87歳の女性入居者が昼食中に転倒し、搬送された病院で死亡していたこともわかりました。施設側から県に女性の死亡は伝えられず、県は20日になって女性の死亡届を受理した鹿屋市からの連絡で知ったといいます。介護職員の配置基準のない種別の老人ホームの態勢は十分だったのか、運営指針を定める県が調査を進めています。

市は22日、ホームの運営状況について「介護的支援の不足」とする調査結果をまとめ、県に報告書を提出。今後、入居者の介護プランを見直すなどの支援策を検討しています。同市の郷原信一・高齢福祉課長は「虐待の判断にはもっと情報を得ないといけないが最終的な結論は出す」と述べています。

 

よいケアは良い人材により成立する

この有料老人ホームの入所定員を特別養護老人ホームの基準に当てはめると、介護職員や看護師は最低18人以上必要になります。住宅型有料老人ホームには介護職員の配置基準はありませんが、この老人ホームでは介護度の高い人が入居しているため、「医療」と「介護」を行う必要がありました。積極的に重度な方を受け入れている点は評価できますが、「医療サービスの不十分さは全くない」と言い切るのは無理があると思われます。

よいケアには、よい人材が不可欠です。仕事の評価は報酬額に比例するものであり、報酬の引き下げは、経営者が考える以上に職員のモチベーションを下げます。特に労使関係が円滑でない場合、一触即発の状態に陥ることは少なくありません。職場への不満が職員間の結束力を高め、経営者への抗議の意味を込めて集団で退職する例も見られます。

現在はSNSなどで情報交換が盛んに行われるため、ダメの烙印を押された施設は介護職員の採用が困難になります。結果として需要があっても働き手がない状況が続き、閉鎖に追い込まれることになりかねません。円満退社が無理でも、しこりを残す辞め方は絶対に避けてください。

 

<出典>

鹿児島の老人施設6人死亡 「老衰」「病死」と説明対応(産経新聞 11月21日)
https://www.sankei.com/affairs/news/181121/afr1811210020-n1.html

鹿児島の老人施設6人死亡 介護職員は全員退職(日本経済新聞 11月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38019000R21C18A1ACX000/

老人ホームで6人死亡、鹿屋市「介護支援不足」の報告書(朝日新聞 11月23日)
https://digital.asahi.com/articles/ASLCQ7RHWLCQUBQU021.html?rm=528

6人死亡の老人ホーム、市「明確な虐待認めず」(日本経済新聞 11月24日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38110260S8A121C1ACYZ00/

 

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