フリー管理栄養士が提案「地域に根差した食支援が必要」
介護施設や医療機関において、管理栄養士は重要な役割を荷っています。介護保険では「栄養改善加算」や「栄養マネジメント加算」などの請求を受けるために配置が必要ですし、健康な体は適切な食事によって作られることから、日々の栄養管理にも大きく貢献しています。しかしながら管理栄養士の業務について詳細に答えられる人は少なく、理解が不十分な現状がみられます。知っていそうで知られていない管理栄養士の役割と課題について、フリー管理栄養士として活動する久保香苗さんに話を伺いました。
管理栄養士とは
食のスペシャリストとして「栄養士」と「管理栄養士」があります。2つには次の違いがあります。
■ 栄養士
栄養士資格は、短大などの栄養士養成施設において2年以上栄養士として必要な知識および技能を修得し、都道府県知事に申請して公布されます。主に健康な方への栄養指導・給食管理を行っています。
■ 管理栄養士
管理栄養士養成施設で学ぶ、あるいは栄養士として必要年数勤務した後、管理栄養士国家試験に合格した者が、厚生労働省に備える管理栄養士名簿に登録されて管理栄養士の免許を受けます。傷病者など個々のさまざまな症状・体質を考慮した栄養指導や給食管理を行います。介護保険の加算の条件が栄養士ではなく「管理栄養士」となっていることからも、高度な専門性が担保されていことが伺えます。
フリー管理栄養士誕生プロセス
全国でも珍しい「フリー管理栄養士」を名乗る久保香苗さんに、管理栄養士の業務について話を伺いました。久保さんは大学卒業後、民間医療グループに管理栄養士として勤務しました。入院患者に最良の栄養療法を提供するために多職種で構成された医療チーム「NST(Nutrition Support Team)」に参加したいと考えていたものの、配属された地方病院では給食管理などがメインであり、自分が思い描く管理栄養士のギャップに悩まされたと言います。
病棟業務に力を入れている病院に転職し、外来や入院の栄養指導や料理教室を行うなど経験を積んだのち、結婚や出産などライフイベントにより非常勤に転向。仕事と育児の両立に悩み非常勤を選んだものの、パソコン業務が多く患者との関わりができない日々に悩んでいました。その時に毎月届く栄養士会雑誌に『在宅訪問管理栄養士』の特集がありました。フリー管理栄養士を名乗りながら在宅療養している方へ栄養サポートをしている記事を見て「私がやりたいことはこれだ!」と思ったそうです。それから間もなくの2018年4月に、日本栄養士会による栄養ケアステーション認定制度が始まり、管理栄養士は地域に出るべきだとの気運が高まりました。そこで「フリー管理栄養士」を宣言し、現在は医療機関と老人デイサービス、民間企業の管理栄養士を兼務しています。
介護領域における栄養の認識が栄養改善のネックに!
2018年4月の介護保険制度改正が行われ、外部との連携により管理栄養士を1名以上配置することで栄養改善加算が算定できるようになりました。同加算はデイサービスの利用者にスクーリングを行い、「BMIが低い」「食事摂取量が75%以下」など低栄養リスクのある方を抽出して、栄養ケア計画を立案することで加算が可能ですが、管理栄養士として栄養状態を改善したいと思っても、家族やケアマネジャーの同意が得られなかったり、主治医が必要と認めないなど、介護領域における低栄養への認識の低さが栄養改善の障壁になっていると言います。
「低栄養が在宅生活のQOLを下げることは明らかなので、少しでも長く在宅生活を続けるために栄養面をサポートしたいと考えていますが、介入を断られたり、金銭的な事情により食事にお金をかけられないなど、どのような介入をすれば良いか悩むことも多いです。またデイサービスに通うのは週1~2回の方が多く、その中で栄養状態を改善することは難しく自宅での食事について多職種との連携が必要です。」と課題を挙げました。
「食生活の改善は薬のような即効性がない上に、食事は日々の習慣であるため、その習慣を変えることは本人にとってエネルギーのいること」という一方で、「今回、栄養改善加算が新設されたことの意義は大きいと思います。デイサービスに通う利用者の約3~4割が低栄養のリスクがあると言われており、その改善のために何らかのアクションをおこす必要がある」と言います。現状の中で自分にできることを求め、デイサービスで行っている料理教室を通じて、栄養の大切さを利用者や家族のみならず職員にも啓発しているそうです。
管理栄養士は地域に出るべき
久保さんは、患者や利用者との対面指導の必要性を強調し「管理栄養士は地域に出るべき」と言います。気持ちを揺さぶられたエピソードとして、食欲が低下した末期がんの利用者の話を聞かせてくれました。
「食欲がなくなった末期がんの利用者を介護する娘さんに『何を食べさせていいかわからないのでアドバイスが欲しい』と言われて家庭を訪問したところ、がんによる食欲不振から咀嚼や飲み込む力が低下していると思われました。娘さんは介護疲れから10kg以上痩せてしまったためこれ以上の調理は負担になるのではと考え、見た目が綺麗で軟らかい介護用食品をお勧めしました。すると大変気に入って完食されたそうです。残念ながら亡くなってしまいましたが、娘さんから『最期に口から満足に食べさせることができて嬉しかったです』と言われ、在宅における食支援が重要なことを痛感しました」と言います。
他のフリー管理栄養士の活躍や末期がんの方のケースに影響を受け、今後の取り組みとして「在宅訪問管理栄養士」の活動を希望しています。いくつかの医療機関などと契約を結び、家庭に出向いて食支援を行うことで、「住み慣れた家で出来るだけ長く生活できるように支援したい」と展望を述べてくれました。