電気の自給自足が実現?2030年のゼロエネルギーハウス(ZEH)
ZEH(ゼロエネルギーハウス)、ZEB(ゼロエネルギービル)という言葉をお聞きになった方も多いと思われます。電力の自由化によって、一般家庭やオフィス、事業所などにおけるエネルギー利用の効率化が一段と進む見通しですが、その一環として、ZEH、ZEBの取組みが注目されています。国は、経産省を中心にこの取組を積極的に後押しする構えです。ZEH、ZEBとはどんな住宅、ビルなのでしょうか。そのイメージを探るとともに、経産省の支援策を見ていきます。
光熱費ゼロ、究極の“省エネ住宅”
ZEHは、正式には、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称です。文字通り、年間のエネルギー消費量を正味でゼロにする住宅です。つまりは、電気、ガス代などの光熱費が不要になるというわけです。光熱費がゼロの住宅は、まさに“究極の省エネ住宅”といってもよいでしょう。そんなことが果たして、可能なのか、という疑問を持たれる方も多いと思われます。しかし、住宅メーカーなどでは、実用化に向けての取組が始まっています。ZEBもネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略称で、ビル全体の光熱費をゼロにする取組です。
省エネ・節電と創エネで実現
“究極の省エネ住宅”は、「省エネ・節電」と「創エネ」の二つのエネルギー収支で実現します。省エネ・節電は家電製品や調理・給湯器の省エネにとどまらず、家の構造全体を省エネ化することによって、電気・エネルギー消費量を節減します。「創エネ」はエネルギーを作り出すシステムで、それには太陽光発電や「エネファーム」(熱・電気の供給システム)のような家庭用燃料電池などがあります。ZEH(ゼロエネルギー住宅)、ZEBは省エネ・節電によって電気消費量を節減する一方で、創エネによって、エネルギーを生み出し、年間トータルとして、光熱費をゼロにするというわけです。もちろん、太陽光発電などは出力が変動するので、通常は、電力会社からの買電が必要です。しかし、日照の強い日は太陽光発電の電気が余る場合があり、電力会社に売電します。
HEMS、BEMSでエネルギー利用を効率化
今年4月から小売電力の全面自由化が実施されますが、自由化を円滑に進めるために地域電力会社は現在、電力メーターをスマートメーター(次世代電力計)に取り替える工事を急いでいます。現在の電力メーターは機械式の電力計測器で、検針員が、直接計測します。スマートメーターは情報・通信機能を備えているので、遠隔検針はもとより、電力会社との情報のやり取りが可能になります。スマートメーターの最大の利点は、家庭やオフィス、事業所内のHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)、あるいはBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)と連携することで、家庭や事業所内のエネルギー消費を最適化するだけでなく、地域全体の電力需要を平準化し、電力料金の抑制につなげることができる点です。
HEMS、BEMSで、家庭や事業所内のエネルギー利用の効率化を図る動きは、需要家の間でかなり進んでいますが、その取組を家やビル全体の構造にまで及ぼしたのが、ZEH、ZEBといえます。家やビルの屋根、壁面、窓などを断熱構造にしたり、日照、風通しなどに工夫を凝らすことで、夏、冬の冷暖房や照明などのエネルギーを最小限に抑える取組です。
2030年までに多くの住宅、ビルでゼロ・エネルギー化
国の「エネルギー基本計画」(2014年4月閣議決定)によると、徹底した省エネ社会の実現を図るため、ZEHに関しては、「2020年までに標準的な新築住宅でZEHを実現し、2030年までに新築住宅の平均でZEHを実現する」とされています。つまり、2030年までに多くの新築住宅をZEHにするというわけです。ZEBに関しては、「2020年までに新築公共建築物で、2030年までに新築建築物の平均でZEBを実現する」とされています。
ZEH、ZEBを実現するため、経産省は先ごろ、ロードマップ(工程表)をまとめました。それによると、ZEH普及に関して、来年度から建築補助などの支援策や、中小工務店での建築ノウハウの確立などに取り組むことにしています。ZEBについては、設計ガイドラインづくりのための実証事業を来年度から実施するとともに、ZEB低コスト化のための技術開発を進めます。また、実証事業におけるテナントに対して、何らかのインセンティブを付与することも検討しています。
まとめ
電力自由化によって、電気料金や節電などに対する消費者の関心はこれまで以上に高まることが予想されます。省エネに対する取組も強まるでしょう。そうした中で、究極の省エネ住宅、省エネビルとされるZEH、ZEBの取組は、国の後押しもあり、今後、加速される見通しです。