実録!内部犯罪 信頼している職員が犯罪者に変わる時

防犯を考える上で忘れてはならないのが、「内部の犯行」に対するセキュリティです。一緒に働く同志を疑うのは心苦しいものですが、残念ながら着服や横領、盗難は後を絶ちません。実際に起きた事件を例に、なぜ内部犯行が起こるのか、そのためにどういった対策が必要なのかを考えてみました。

 

障害者施設の副園長 482万円を着服

2016年10月12日(河北新報)
宮城県大和町の障害者支援施設の女性副施設長が、入所者の預り金482万円を着服していることが分かった。副施設長は2006年より二つの施設の銀行口座を管理。2016年5~7月に架空の請求名で、入所者の口座から施設の口座に現金を振り替え、482万円を着服した。副施設長が休んだ際に、他の職員により領収書がなかったり支出が合わないことが分かり、着服が発覚した。またこの法人では2010年5月から2016年3月まで使途不明金が約3200万円あることも判明。副施設長を自宅待機させ関連を調査している。

 

児童養護施設で職員による預金着服 入所少年から訓練費など64万円

2012年9月12日(ケアマネタイムス)
愛知県名古屋市内の児童養護施設で、男性職員が入所者の少年(18)の銀行口座から60万円あまりを無断で引き出していたことが発覚した。少年には軽度の知的障害があり、男性職員は2011年4月から少年の指導員として指導管理を担当。少年の通帳や印鑑を無許可で持ち出し、2011年4月から翌年3月にかけて複数回、職業訓練校から受給した訓練費50万円や月額9万円ほどのパート給料の一部を引き出していた。男性職員は少年に全額を返し、着服発覚後の5月末に依願退職している。

上記の事件は氷山の一角です。「入所者の居室から金品がなくなる」など、報道されないような事件も含めると、どれくらいの件数になるのか想像もつきません。入所者の預り金は大切な財産です。多くの施設では、しっかりと管理されているはずですが、次のような耳を疑うような事件も起こっています。

 

施設職員が入所者の510万円を着服

2011年11月17日(ケアマネタイムス)
滋賀県大津市の福祉施設で、入所者のキャッシュカードを盗んで金を引き出したとして職員が逮捕された。精神障害のある入所者2人のキャッシュカードを事務所の金庫から盗み、1人の口座から2011年6~9月に380万円、もう1人の口座からは8、9月に130万円を引き出したとみられる。盗まれたキャッシュカードは金庫に保管されていたものの、職員は自由に開けられた。ただし、持ち出すときは所長の許可を得るよう決められていたが、逮捕された職員は無断で持ち出していた。

金庫が誰でも自由に開けられるのであれば、もはや金庫の意味をなしていません。お金の流れが分かりづらいキャッシュカードを使用する点も問題があります。毎月記帳する、身元引受人に金銭の状況を報告するなどして、収支を可視化できていれば防ぐことができた事件でした。

 

立場を利用した管理者の犯行

横領・着服に関する記事を見ていると、施設長、副施設長といった立場を利用した犯行が目につきます。種別を問わず様々な事件が発覚していました。

・奈川振興公社で着服 そば店施設長が31万円余(2016年10月6日)
・松山市老人ホームの元施設長を業務上横領で逮捕(2016年9月14日)
・児童手当376万円着服疑い 京都、元児童施設長を再逮捕(2016年3月3日)
・マツタケや牛肉着服か、愛知県 老人ホーム施設長解雇(2013年4月2日)
・埼玉県有料老人ホームで預かり金の着服。「飲み代のつけに・・」(2013年1月3日)

 

入所者の預り金1200万円を使い込みの真相

信頼している上司が実は犯罪者だとしたら、入所者や職員はどう思うのか。最後に筆者の体験をお伝えさせていただきます。

・施設の金銭管理体制

2007年11月に北海道の町立特別養護老人ホームで、入所者の預り金1200万円を使い込んだとして係長が懲戒免職処分になりました。係長は2004年1月から2007年3月までに無断で入所者の預金通帳から金をおろし、遊ぶ金にあてていました。筆者はこの施設に2003年2月から2007年3月までケアマネジャーとして勤務。係長は同じ事務所で働く上司でした。

この施設では買い物や受診などの支払いのため、入所者から現金2万円程度と印鑑を預かり、信用金庫や郵便局に口座を作って金銭を管理していました。通帳と金庫は別々に保管していたので誰でも簡単に取り出すことはできませんでしたが、「多くの人がかかわると混乱する」という理由から、おもに事務主任(その後の係長に昇進)が管理していました。

懲戒免職になった係長は、2006年3月まで同施設の事務主任であり、同年4月から係長に昇進しています。それまでいた係長は別の部署に移動、人員削減から事務主任のポストは空席。引き続き金銭管理は係長の独占業務となっていました。

預り金が少なくなると、係長が家族に電話をかけて持ってきてもらいます。家族には預かり書を発行しますが、それを大切に保管する人はほとんどいませんでした。そのため通帳に入金せず、ポケットに入れても気づかれることはありません。全員が顔見知りである土地柄や町職員という立場が、家族の気を緩ませていたのかもしれません。

入所者の収支は毎月一覧にして施設長の決済を受けます。本来であれば通帳と照らし合わせて内容を確認しなければなりませんが、全員分を確認するには時間がかかるため、領収書と報告書の計算が正しいか程度の確認にとどまっていました。報告書と通帳の乖離もあったそうですが、これではチェックできません。

<アドバイスポイント>

・金銭を預かるときは必ず2人で確認する。
・金銭管理をする職員は、定期的に変更する。
・収支報告と領収書、通帳は必ず確認する。
・施設長などトップの犯行も多いため、職員全体でチェックできるシステムを採る。
・できれば預り金を発生させないシステムを作る。

 

・なぜ犯行に気づかなかったのか

この事件は第三者に発見されて発覚したのではなく、係長が友人に相談したことから発覚しました。警察から事情聴取を受けた時にも聞かれましたが、犯行はまったく気づきませんでした。2007年3月は筆者が町を退職した月であり、その後の人事異動によって他者が金銭管理をすることを恐れて自首のだと推測できます。もし筆者が退職しなければ、誰にも気づかれることなく続いていたかもしれません。

係長は温厚で人当たりもよく真面目な方でした。だからこそ金銭管理をひとりで任されていたのでしょうが、それが事件の発端となったとは皮肉なものです。着服した金は競馬に使っていたそうですが、競馬の話をしていることは一度もなく、誰もが犯行理由に驚きを隠せませんでした。

 

まとめ

人は様々な側面をもっています。優しく入居者や職員に接するのも、入居者の預かり金で競馬に講じるのも同じ係長です。被害総額を親が弁償したことにより町は係長を刑事告発しなかったそうですが、信頼してお金を預けていた入所者を傷つけるなど、精神的虐待ともいえる許せない行為です。

管理者としてやるべきことは、金銭管理担当者に着服しようする気持ちを起こさせないよう、監視の目を高めること。職員の心の隙を作らないセキュリティ・システムが必要といえるでしょう。
★あわせて読みたい★>>『高齢者施設防犯の手引き』

 

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