2018年度介護報酬改定、検討内容まとめ(2017年11月現在)
2018年度の介護報酬改定に向けて議論が活発化しています。安倍晋三首相は11月1日の第4次内閣発足後の記者会見で「介護人材確保のためのさらなる処遇改善などを進める」と述べたものの、まだ全貌は見えていません。「介護報酬は引き上げられるのか?」「新たな加算の設定はあるのか?」など、現時点(2017年11月7日現在)で検討されている内容をまとめました。
政府は介護報酬引き上げを検討しているが…
2017年度に介護報酬の臨時引き上げが行われ、1.4%(平均1万円)上昇しましたが、人手不足による人件費増などで介護保険サービス事業所の経営が悪化していることに対応するために、2018年度も介護報酬を引き上げることが検討されています。ただし利用者が多い通所介護(デイサービス)と訪問看護は高い利益を上げていることから、一部介護報酬が引き下げられる見込みです。
減算が検討されている大規模のデイサービス
利用者数が多い事業所については、光熱費など1人当たりの管理コストが下がり、利益率が高くなることから、延べ751人以上の大規模施設への報酬を引き下げることを検討、小規模事業所については報酬を手厚くするなどし、利益率が同程度になるよう見直しが図られています。
リハビリ専門職と連携した機能訓練を実施する場合は手厚く
今回の改正では、高齢者の自立支援や重度化を防ぐためのリハビリに対する報酬が強化されています。現在の仕組みでは、施設に専従の職員を配置してリハビリを実施した場合に報酬が加算されますが、財政的な理由から専従職員の雇用に至らず、リハビリを実施できない事業所は少なくありません。
この問題を踏まえ2018年の改正では、理学療法士や言語聴覚士など外部のリハビリ専門職と連携した機能訓練を実施する事業所へ報酬を手厚くする方針を固めています。ただし、高齢者一人一人に応じた訓練計画を作成したうえで、定期的に訓練の成果を検証することが条件となるなど、高いハードルが課せられる見通しです。
減算が検討される併設型訪問看護・訪問介護
「移動時間が少なく、一度に多くの訪問ができるためコストが抑制されている」という理由により、通常より10%低い介護報酬となっている有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅併設型の訪問看護・訪問介護事業所について、利用者数が10人を超える場合は、介護報酬を引き下げる。一部の併設型事業所には「同じグループ内での利用者の抱え込みや、過剰なサービスの提供」も問題視されており、減算は介護費用を抑制する狙いもある。また一般の集合住宅も引き下げ対象に加え、報酬減算を強化する方向性を示しています。
生活援助を担うヘルパーを新設
現在、約130時間の介護職員初任者研修を受けることなどが条件となっている訪問介護ヘルパー資格について、「生活援助」のみを行うヘルパーの資格を新設、資格取得のハードルを下げて介護人材を確保することが検討されています。身の回りの介護を行う「身体介護」については報酬を手厚くする一方で、生活援助については報酬が引き下げられることが考えられます。
引き上げ幅は小幅、サービスの重点化・効率化は徹底
介護保険制度によって、高齢者介護は老人福祉から切り離され、消費されるサービスとなりました。通常、消費活動は生産者と消費者の自由契約に基づいて価格が決定するものですが、公金を財源とする介護保険の価格は、国によって決定されます。ここに「儲からない仕組み」があるのです。
それを裏付けるように、2018年の改正は、介護報酬の引き上げ幅は小幅であるにもかかわらず、サービスの重点化・効率化は徹底するなど厳しい内容になっています。気になるのは、11月の時点でデイサービス、訪問介護・訪問看護に対する議論が中心であることです。時間的な問題から、少しは利益につながりそうな「介護ロボットの活用に対する加算」や、「混合介護の弾力化」などは先送りされる可能性が出てきました。
安部総理大臣は「介護人材確保のためのさらなる処遇改善」「介護離職ゼロ」を声高らかに掲げていますが、このままでは2018年以降は中・小規模事業所のみならず、減算対象となった大規模事業所も倒産するなど、介護サービスの縮小や介護離職に拍車がかかることが予想されます。