介護施設が行うべき認知症への対応
現在、高齢者の4人に1人は認知機能に障害があるといわれています。実際に、程度の差はあれど、介護施設の入所者の多くの人が認知症を患っているのではないでしょうか?
認知症といえば、夜間の徘徊や暴言などマイナスイメージを抱く人もいますが、その症状をきちんと理解して適切な対応を行えば、ご本人も職員も苦痛を感じることは少なくなるはずです。ここでは、認知症への適切な対応を詳しく解説します。
1. 認知症の全貌~その原因から症状まで~
認知症への正しい対応するには、まず認知症について知ることから始めましょう。
1.1 物忘れと認知症の違い
人は誰でも年を取ると物忘れをするものです。しかし、物忘れをしやすい人が全て認知症というわけではありません。単なる物忘れは、ある事柄の一部分だけを忘れて、きかっけがあれば思い出すことができるものです。また、本人には物忘れの自覚があり、日常生活に支障をきたすことはほとんどありません。一方、認知症はある事柄の全てをわすれて思い出すことができません。本人に自覚症状がないため、忘れた事実を受け入れられず怒りっぽく攻撃的な性格になってしまいます。このため、日常生活に大きな支障を来たしています。
1.2 認知症の原因
認知症には様々な原因があり、代表的なものはアルツハイマー病、脳血管障害によるもの、レビー小体型認知症の3つです。
それぞれに共通しているのは、何らかの原因によって脳の神経細胞が働きを失うことです。アルツハイマー病の場合は、脳の組織内に老人班と呼ばれる物質が蓄積して神経細胞を死滅させてしまいます。脳血管障害では、脳の一部が障害されて機能しなくなった状態ですから、当然その部分に関わる認知機能も障害されます。また、レビー小体型では、レビー小体と呼ばれる物質が脳内にできて神経細胞が死んでしまうのです。
1.3 認知症の症状
認知症には、脳の神経細胞がダメージを受けることで起こる中核症状があります。代表的なものは、記憶障害で、過去のことはよく覚えているのに直前のことは覚えられないことが特徴です。また、時間や場所がわからなくなったり、料理が作れなくなってしまったり、人によって様々な症状が現れます。
その人の元からの性格や生活環境などによって、中核症状と共に現れてくる症状を周辺症状と呼びます。介護施設で特に問題となるうつ状態や暴言、暴力、せん妄などの症状は全て周辺症状なのです。
2. 認知症の介護~その実態~
認知症の介護は心身ともに大きな負担となることがあります。特に、周辺症状が強い人は、いわれのない暴言を吐いたり、時には暴力を振るわれたりすることもあります。どこへ行ってしまうか見当がつかないので、常に見守りを行わなければならず、介護施設では多くの人手を要します。目を離した隙に想定外のことをして、その後片付けに追われることもあるでしょう。
職員は皆介護のプロです。ですが、このような状況が延々と続くと、疲れやストレスが溜まり、いい介護が行えなくなってしまうものです。介護を行う上で職員の笑顔は非常に大切なものです。しかし、認知症が多い施設の職員は、殺気立って笑顔を忘れていることもしばしばあるのです。
認知症の介護は決して簡単で一筋縄でいくものではないことを肝に銘じておきましょう。
3. 認知症への対応~介護施設でできること~
認知症の中核症状は進行性のものですから、対策をするには限界があります。しかし、多くの介護施設で問題となる認知症の症状は多くが周辺症状であり、これらは患者背景に左右されますから対策をすることが可能です。
3.1 自尊心を傷つけない
高齢者はプライドの高い人が非常に多いです。ですから、何か失敗をしてもきつく責めることや鋭く指摘をするのはやめましょう。認知症の人は相手の言葉の意図が理解できない場合が多いですから、声を荒げて静止しても無意味な恐怖感や反感を与えるだけです。元から怒りっぽい人は、暴言や暴力行為につながりますし、神経質な人ではうつ状態となってしまうことがあります。何か注意をしたいときは、威圧的な言い方ではなく、「あなたの味方です」という心意気でゆっくり言い聞かせるとよいでしょう。
3.2 規則正しい生活
認知症の人は生活上のちょっとした変化に敏感に反応します。朝起きる時間が違った、入浴の時間がいつもと違った…などの少しの違いに混乱してしまうのです。このような混乱は周辺症状の悪化につながりますから、なるべく規則正しい生活を送れるように支援しましょう。
3.3 理解を示す
認知症の人は時に突拍子もないことを言い出します。常識では考えられないようなことを言ったとしても、それを否定すると患者は混乱し、さらに自尊心を深く傷つけることになります。このような場合には、ある程度の理解を示すような言葉がけをするとよいでしょう。聞いてくれるだけで患者は安心感を得ることができます。
3.4 情報共有
認知症の人はいつ何時、どこかへ行ってしまうか何をするか予想が立てられません。ですから、徘徊癖や異色癖など、目を離してはいけいような症状がある人はその情報を全職員が共有している必要があります。担当者の手が離せない状態でも、他の職員がしっかり見ていればよいのです。
認知症の介護はまさにチームプレイなのです。
3.5 生活に刺激を
認知症の人は、人との関りに抵抗する人もいます。しかし、一日ベッドに寝ているだけで必要最低限の会話しかしない状況では、中核症状が益々進行してしまう危険があります。患者のその日の体調や気分を見て、状態がよいときにはホールに連れ出して他の入所者と一緒に過ごしてもらうなどの対策をするとよいでしょう。
4. 認知症には適切な対応を!
介護施設では避けることのできない認知症への対応。一人一人の状態をよく知り、適切な対策を行えば、周辺症状を軽減することができます。職員の負担軽減になるだけでなく、認知症の本人や周りの入所者にとっても、快適な施設生活とつながるはずです。
よりよい介護を目指すためにも、認知症を正しく理解し職員一人一人が適切な対応を取れるように周知しましょう。