公的機関調査に見る介護人材採用と離職の実態
独立行政法人福祉医療機構(通称WAM)が行った「特養開設時実態調査」により、特別養護老人ホームの3分の1以上が、職員不足を理由に利用の受け入れを制限していることが明らかになりました。新設法人に至っては1年後に約半数が退職するなど、人材確保や定着に課題を抱えている現状が浮き彫りになっています。介護人材採用と離職の実態はどうなっているのか。公的機関の調査をもとに読み解いてみました。
法人の87.2%が「介護職員の確保に苦労した」と回答
同調査は、2015年8月から16年7月末までに開設した特別養護老人ホーム155施設に実施、78施設が回答しています。うち2割が特別養護老人ホーム開設に伴い、新しく法人を設立した施設でした。
人材確保に向けた採用活動は平均7.5か月前から開始され、オープン時の職員充足率は90.1%となっています。採用数は定員10人あたり5.84人、うち介護職員は4.14人を占め、充足率は88.0%。「介護職員の確保に苦労した」と回答した法人は87.2%にのぼるなど、万全な介護体制でスタートすることが困難な状況が伺えます。
定員10人あたり介護職員充足率(%)
期間 | 開設3か月前 | 開設時 | 開設1年 1か月目 |
---|---|---|---|
常勤職員 | 2.14 | 3.48 | 3.95 |
非常勤職員 | 0.31 | 0.63 | 1.00 |
派遣職員 | 0.01 | 0.04 | 0.16 |
合 計 | 2.46 | 4.14 | 5.11 |
充足率 | 51.6% | 88.0% |
注:充足率は採用数を開設時に希望する職員数で除して算出
募集の取り組み
募集媒体について目を移してみましょう。平均で7か月前から職員採用を行っている法人では、「ハローワーク絡(新設187.5%・既設144.1%)」と「新聞折り込み広告(新設166.7 %・既設139.0%)」が上位を占めています。新設法人では「転職サイト(125.0%)」が高いパーセンテージを示すなど、従来の募集だけでなくITの活用も併せて行う必要があることがうかがえます。
注1:「資格取得のための実習受入れ」は法人内の別施設における実績 注 2:「新卒者採用サイト」はリクナビ・マイナビ等(以 下、記載がない場合は同じ)
介護職員定着への取り組み
介護職員定着への取り組み(複数回答)を見ると、「給与体系の改善(67.9%)」、「勤務体制の改善(61.5%)」、「キャリアパスの明確化(55.1%)」が過半数を占め、続いて「メンタルヘルスへの対応(32.1%)」、「職員交流イベントの実施(26.9%)」、「ICT・介護ロボットの活用施(23.1%)」、「職員研修の実施(10.3%)」の順となっています。
介護職員の平均給与額は前年比で1.2万円増
他の業界に比べて、介護職は重労働であるにも関わらず、収入が少ないと言われています。厚生労働省は2018年4月に「社会保障審議会介護給付費分科会」を開催し、平成29年度介護従事者処遇状況等調査結果を報告。介護職員処遇改善加算等の取得により、介護職員の平均給与額は、前年比で1.2万円増えたと発表しました。加算の種類別に見ると、新設された加算Ⅰが64.9%を占め、加算Ⅱ(13.5%)、加算Ⅲ(10.7%)、加算Ⅳ(1.1%)と続き、全体では91.2%の事業所が加算を取得しています。
人材不足が経営と公共性維持を直撃
介護職員は超売り手市場。せっかく採用しても、より条件のよい事業所を求めて流出する傾向が顕著です。開設時に確保した常勤職員のうち、1年後までに退職した割合は、新設法人44.6%と半数近く、既設法人の新規採用者に限ると87.5%にも達します。そのため運営上必要な職員が確保できず、開設時に利用者の受け入れを制限した施設は35.9%。うち待機者がいるにも関わらず空室の稼働ができない施設も全体の36.0%あるなど、深刻な状況が続いています。特別養護老人ホームは税制優遇を適応された公的施設ですが、施設経営を圧迫するだけでなく、このままでは公共性の維持も困難になるといえるでしょう。
離職の理由は賃金のみにあらず
介護職員の報酬アップと同時に行わなくてはならないのが、職場環境の改善です。16年11月に日本介護福祉士会が転職者に実施したアンケートによると、離職理由のトップは、「職場の人間関係35%や職場の運営方針(33%)が給与面の不満(30%)を上回っていました。また、別のアンケートでは、「専門性が発揮できない」「将来の見通しがない」との意見も多く寄せられるなど、給与面だけではない改善も希望されています。 平成29年度介護従事者処遇状況等調査結果によると、加算Ⅰを取得している事業者が満たすキャリアパス要件Ⅲの内容として「経験に応じて昇給する仕組みを設けている」と答えた法人が68.4%、「一定の基準に基づき、定期的に昇給を判定する仕組みを設けている」との回答が52.1%と健闘しているものの、「職種間・事業所間の賃金バランスが取れなくなることが懸念される」、「昇給を設けるための事務作業が煩雑」、「昇給の仕組みをどのように定めていいかわからない」などの理由で加算Ⅰを取得していない法人もあるなど、格差が表れています。
人材確保のヒント
京都府では平成21年より、「京都府福祉人材確保総合事業」を実施。手厚い人材育成を行う事業所を厳格に評価し、「認証事業者」として認定。さらに実績を積んだ法人を、業界の模範と認め「上位認証法人」に認定しています。結果、全国の離職率が16.5%であるのに対し、上位認証法人は6.7%(全国平均との差9.8ポイント)と、離職が抑制されました。今後、介護職員の確保は、ひとつの法人の努力だけではなく、別法人が連携し合う、自治体の協力を仰ぐなど、これまでにない改革が必要ではないでしょうか。
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