北海道・石狩市「注文をまちがえる料理店」現地からレポート
北海道・石狩市では2018年9月26日に、認知症の人が店員を務める臨時の飲食店「注文をまちがえるレストランin石狩」を市内のコミュティカフェで開店。11月まで3回開催され、大盛況の中幕を閉じました。今年度最後の開店となる11月3日の様子をレポートします。
女子大生が考案の地産地消を意識したメニュー
注文をまちがえるレストランは、市内のコミュティカフェを借りてオープンしました。営業時間は11時から15時まで。開店前から噂を聞きつけた人や介護関係者が多数集まっています。ウエートレスは全員認知症の高齢者で混乱を避けるためにテーブルは4つに限定。間違えにくいようテーブルに番号が振られています。メニューの決定や調理は藤女子大学食物栄養学科の学生がゼミの一環として担当し、この日は以下の三つのメニューが用意されました。
■ハッピーセット
タコライス(望来豚使用)
望来豚(もうらいぶた)は、石狩市厚田地区望来で飼育されています。厳しい自然の中で時間をかけて育てられ、飼料から敷材まで北海道産にこだわって使用しています。
■ラッキーセット
鮭のカレーピカタとナムル
石狩市は石狩鍋発祥の地であり、昔は石狩川にもたくさんのサケが遡上しました。現在でも秋になると浜益地区や厚田地区などの川に、命がけで産卵する鮭の姿を見ることができます。
■ハピネスセット
油淋鶏と長いもサラダ
砂地で根菜類を作りやすい石狩産の長いもは、寒暖の差と強い風の影響を受けて粘りが強く締まり、とてもおいしいと評判です。
以上に、キノコのスープとビール風ゼリーがついて一律800円。各10食合計30食のため、後半は「注文通りのメニューが用意できない」こともあります。
オーナーを務める認知症地域支援推進員の木元国友氏に伺うと「第1回目は最初に多くのお客さんを入店させたため、高齢者スタッフが混乱して帰りたがる人も見られた」といいます。この日はそれまでの反省を踏まえて少しずつ入店させています。そのため受付を済ませてから注文まで約1時間も待つことに。晩秋の陽気の中でゆっくりと時間を過ごしました。
やはり間違えは起こる!
この日の高齢者スタッフは公募で選ばれた方々で、グループホームや特別養護老人ホーム、ケアハウスの入所者がメンバーです。注文を取って厨房にオーダーを通したり、料理の配膳や下膳を行うウエートレスの役割を荷っています。メニューは3つのセットのみとシンプルなため、伝票には注文されたメニューを丸で囲むだけと認知症の方に配慮されています。
水を運んできたウエートレスにハッピーセットを注文すると、元気よく返事をして厨房に向かいましたが、数秒後に再びやってきて注文を確認されました。数分してタコライスを運ぶ姿が見えたので「今度は大丈夫」と期待したものの、私の前をスルーして隣の方のもとへ。普通の飲食店であれば何度も注文を聞き返されたり注文が前後されると「この店はどうなっている!」と腹立たしく思うものですが、ここではそれも織り込み済み。ほほえましくさえ思います。
私のテーブルを担当されている方は普段特別養護老人ホームに入所しており、施設内の喫茶店を手伝っている姿に職員が適性を見出だして応募したと言います。多くの人はレストランが終わってしまえばウエートレスをやっていた記憶を失ってしまいますが、業務中はしっかりと自分の役割を認識し、生き生きと働いている姿が印象的でした。あっという間にすべてのメニューが売り切れ、その後も押し寄せるお客さんには飲み物が提供されていました。
共生の場を増やしていきたい
「注文をまちがえるレストラン」を提案した石狩市は、この取り組みを認知症カフェのように広げたい考えです。木元氏は「私たちだけだと30食くらいが限界ですが、レストランを開店する団体が複数現れることで、もっと多くの人に楽しんでもらえるとともに、認知症高齢者の活躍の場が広がる」と言います。
今年度の一般公開はこれで終了しますが、12月に高校生を呼んでレストランを開催し、生き生きと働く高齢者との触れ合いの機会を設けることを予定しています。また次年度からは「酔っぱらってしまえば間違っていてもOK」というノリで、「注文をまちがえる居酒屋」の開店を予定。男性高齢者の参加を増やしたいと考えているそうです。
課題は人と金
世界的な取り組みに発展しつつある「注文をまちがえる料理店」ですが、開店には課題も上がっています。木元氏によると「実行委員としてのスタッフはボランティアとして活動しているが高齢者スタッフには最低時給以上の報酬を払いたい。場所を借りたりユニフォームを作ったりするお金がかかり、補助金なしの単独事業として成り立たせるのは難しい」と金銭的な課題を指摘します。
国は地域の自主性や主体性に基づき地域の特性に応じた活動を行う「地域包括ケアシステム」を推進していますが、人や金をどう工面するのかなど、アイデアの実現のために超えなければならない障壁が散在しています。
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