UR団地をサ高住にするコミュニティネットのビジネスモデル

「いつまでも住み慣れた街で自由に暮らしたい」というニーズを的確にとらえ、「参加型の地域づくり」をキーワードに、子どもから高齢者まで多世代が暮らせるコミュニティづくりを目指している企業があります。「株式会社コミュニティネット」を取材しました。

 

コミュニティネットが推進する「地域コミュニティ」とは?

株式会社コミュニティネットは、全国でサービス付き高齢者住宅など11事業所を展開。「団地再生型」「駅前再開発型」「過疎地域再生・環境共生型」など、地域コミュニティの構築を視野に入れた事業モデルが話題を集めています。同社の須藤康夫社長に地域コミュニティを重視している理由を伺いました。

UR団地をサービス付き高齢者住宅として開設

弊社のコンセプトは、箱モノを作って高齢者を入居させる従来のスタイルではなく、子育て世代や中高年のファミリー、場合によっては障がいを持つ方や、そのご家族など、多くの世代の方が生活するコミュニティを実現したいと言う考えが根底にあります。それを説明するうえで、一番わかりやすいのが「団地再生」です。

昭和40年代、全国的に大掛かりな団地建設が推進されました。その多くが郊外を対象とする中、東京都板橋区の「高島平団地」は、最も都心に近いという立地条件から入居応募が殺到しました。しかし時の流れと共にニュータウンともてはやされた団地の老朽化が進み、居住民の子弟が成人後、あるいは就職後に独り立ちする1990年代中頃には、入居者の減少とともに高齢化が訪れました。

同団地を管理する都市再生機構(UR)は、課題解決のために若年層世帯の獲得に向けたリノベーションや高齢者が住みやすい環境整備を検討。その方策として、同社が自治体から助成を受けて団地一棟121戸のうち空室となっている約40戸をバリアフリーに改装し、2014年12月よりサービス付き高齢者住宅(以下サ高住)「ゆいま~る高島平」の1期として30戸をオープンしました。

 

多世代コミュニティを構築できる高齢者住宅

これまでもUR団地を利用したサ高住を手掛けていましたが、団地全体をサ高住としていたため、目的である多世代を含めたコミュニティが思ったように構築できませんでした。ゆいま~る高島平は、UR団地に点在する空き室を活用した「分散型」にすることで、サ高住で暮らしながら他の世代とのコミュニティを成立することが可能になりました。

現在は、分散型サ高住の第2弾として、2017年9月に愛知県住宅供給公社の公団(名古屋市北区)に「ゆいま~る大曽根」をオープン。1階のスーパーの空き店舗を利用して、コミュニティスペース「ソーネおおぞね」を開設し、カフェレストランやパン工房、資源買取リサイクルなどを設置することで、世代を超えた交流が行われています。また、サ高住の住人がレストランなどで働くなど、労働の場としても活用されています。

 

入居者の状況

こうした取り組みが話題を集め、ゆいま~るシリーズ全体の入居率は90%以上を誇っています。平均年齢78歳、独身女性が7割を占め、夫婦2割、男性1割と続きます。入居理由の多くは、「いつまでも馴染親しんだ街に住んでいたい」、「息子夫婦や娘など親族の近所に移り住みたい」が大半を占めています。利用料は10~20万円前後。年金プラス貯蓄で生活ができる中間層を対象とし、入居者が安心して安全に暮らせるよう生活コーディネーターを常駐させ、生活相談と安否確認に注力しています。

 

コミュニティを重視する理由

「先日、新聞社から取材を受けたときに、『ゆいま~る高島平開設から約3年が経過したのに、後追いする業者が出現しないのは何故ですか』と質問されました。競合相手が現れないのは、手間暇がかるうえに儲からないからです」と須藤社長は笑います。

ゆいま~る高島平は、オープンの3年前から社員が団地に移り住み、自治会とのつながりや周辺環境の利便性などを社員自身が肌で感じ取りながら、開設活動が進められました。合理性を求める企業にとってコミュニティの構築は、ただちに収益に直結するものではありません。追従する企業が現れないのも当然と言えるでしょう。

ゆいま~るは、沖縄の言葉で「助け合い」を意味します。社会環境を、共生感あふれるコミュニティにつくり変えることができたなら、すべての人にとって暮らしやすい地域になります。コミュニティの形成は助け合いの心を動かし、極論として社会保障の抑制にもつながります。

「助け合う」ことは、それぞれに役割を負うことでもあります。同社では入居者の方々に収支を公表していますが、業者に委託していた公共スペースなどの清掃費を「ムダ」と判断し、入居者自身が自主的に環境美化に取り組むケースも見られているそうです。

 

現状の課題と今後の展望

老朽化した団地の空室は全国的な問題であり、同社には住宅供給公社やURなどから団地再生のオファーが殺到しています。須藤社長は、「人材確保が一番の課題」としながら、今後も子どもから高齢者まで多世代が共に暮らせるコミュニティづくりを実践していく考えを強調。「株式会社である以上、利益を求めなくてはなりませんが、同時に社会貢献できる企業でなくてはなりません。日本が今後迎えるだろう『住まい』と言う課題を弊社が解決できればいい」と結びました。

 

 

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