身体拘束廃止未実施減算と身体拘束の実態

2018年4月の介護保険法改正により、「身体拘束廃止未実施減算」が7月から適応されます。これまでは、やむを得ず身体拘束を行った際の記録が行われていない場合が減算対象でしたが、今後は身体拘束の有無にかかわらず、新たに設けられた基準を満たしていない場合も減算の対象になります。また、それ以降も改善が認められない場合は、減算期間が延長されるなどのペナルティが与えられます。

 

新基準と減算

<身体拘束廃止未実施減算の基準>

  • ■ 身体拘束などを行う場合には、その態様・時間、その際の入所者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録すること。
  • ■ 身体拘束などの適正化のための対策を検討する委員会を3ヵ月に1度以上開催するとともに、その結果について、介護職員やその他の職員に周知徹底を図ること(地域密着型特養においては運営推進会議を活用することができることとする)
  • ■ 身体拘束などの適正化のための指針を整備すること。
  • ■ 介護職員やその他の職員に対し、身体拘束などの適正化のための研修を定期的に実施すること。

留意事項など

態様 具体的な身体的拘束を行う場所、方法、身体部位等
時間 身体的拘束の解除日、身体的拘束を行う時間帯及び時間
その際の入所者の心身の状況
  • 1. 身体的拘束による危険回避のみではなく、入所者の心身に対する弊害の有無・程度を観察し明確に記載すること。
  • 2. 身体的拘束が要因となって不穏・食欲低下・気力減退・認知症やADLの悪化・拘束部位の皮膚剥離の有無等が生じていないかを記録すること。
  • 3. 事前に、詳細な観察項目を拘束方法に応じて決めておくなど、漏れなく観察が行われるようマニュアル化しておくこと。
緊急やむを得ない理由
  • 1. 緊急やむを得ない理由(入所者の心身の状況)の3要件について、「身体拘束廃止委員会(仮称)」等、施設全体で厳密に検討した結果をカンファレンス記録等で記録すること。。
  • 2. 利用者、家族への説明を行い、同意を得ること。
その他 解除予定日を設定するとともに、身体的拘束による弊害が生じた場合や切迫性・非代替性・一時性の3要件を満たさなくなった時に速やかに解除できるよう、短期目標を設定し、定期的に上記項目の観察・評価・検討を行うこと。

<減算>

基準を満たしていないことが明らかになった場合は、速やかに改善計画を都道府県知事に提出後、事実が生じた月から3ヵ月後に改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告することとし、事実が生じた月の翌月から改善が認められた月までの間、入居者全員について一日当たり10%減算(これまでは5単位)となります。なお、減算対象について、WAM NETに次のようなQ&Aが掲載されています。

質問Q

施設監査に行った際に身体拘束に係る記録を行っていないことを発見した場合、いつからいつまでが減算となるのか。また、平成18年4月前の身体拘束について記録を行っていなかった場合は、減算の対象となるのか。

  • ・身体拘束の記録を行っていなかった日:平成18年4月2日
  • ・記録を行っていなかったことを発見した日:平成18年7月1日
  • ・改善計画を市町村長に提出した日:平成18年7月5日
回答A

身体拘束廃止未実施減算については、身体拘束の記録を行っていない事実が生じた場合、速やかに改善計画を市町村長に提出し、これに基づく改善状況を3か月後に報告することになっているが、これは、事実が生じた月に改善計画を速やかに提出させ、改善計画提出後最低3か月間は減算するということである。 したがって、お尋ねのケースの場合、改善計画が提出された平成18年7月を基準とし、減算はその翌月の同年8月から開始し、最短でもその3か月後の10月までとなる。 なお、身体拘束廃止未実施減算は、平成18年4月から新たに設けたものであることから、同月以降に行った身体拘束について記録を行っていなかった場合に減算対象となる。

引用:WAM NET
介護サービス関係Q&A

 

身体拘束の現状

今回の規制の強化は、介護施設で高齢者が不当に身体拘束されることを防ぐためと言われています。実際に身体拘束は行われているのか。特定非営利活動法人 地域ケア政策ネットワーク 介護相談・地域づくり連絡会が2017年3月に発表した、「身体拘束及び高齢者虐待の未然防止に向けた介護相談員の活用に関する調査研究事業報告書」から、現状を調べました。

この調査は、介護相談員派遣事業実施事務局464件に在籍する現在活動中の介護相談員 4,680名を対象に悉皆調査。有効回答3,877件、事例数7,847件について報告しています。
回答対象として「特別養護老人ホーム」が39.6%と最も多く、「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」16.6%、「介護老人保健施設」16.1%、その他5%未満となっています。

 

<施設の約2割が虐待・身体拘束を認める>

虐待・身体拘束の有無の比率をみると、「なかった」が74.3%(2,879件)を占めるものの、「あった」は19.5%(757件)、と施設の約2割が虐待・身体拘束を認めています。スピーチロックなど、人知れず行われている行為も含めると、2割程度では収まらないと考えられます。

 

<疾患と認知症が虐待・身体拘束を誘発>

施設別でみると、「療養病床」における虐待・身体拘束が54.5%と最も多く、「老健」32.6%、「ショートステイ」25.0%、「特養」21.3%、「グループホーム」17.5%、「小規模特養」13.0%、「小規模多機能」11.2%となっています。

 

<施設別にみた身体拘束の内容>

車いすに拘束 ミトン・手指の拘束 ベッドに拘束 つなぎ服・ヘッドギア 行動制限・鍵・カメラ 向精神薬の過剰の服用
特養 239 123 83 35 2 1
老健 174 87 58 30
療養病床 13 29 17 58
デイサービス 11 1 2
デイケア 2
ショートステイ 13 6
グループホーム 76 16 18 8
小規模多機能 3 1 1
小規模特養 5 1 3
その他 14 8 25 3 1

※「身体拘束及び高齢者虐待の未然防止に向けた介護相談員の活用に関する調査研究事業報告書」の表から虐待を削除

 

身体拘束の具体例(一部抜粋)

  • ● 車イスでY字型束帯を使用した上で、車イスを壁の手すりに固定。
  • ● 車いすのタイヤの空気を片方しか入れていない為車いすで動こうとすると同じところをくるくる回る。
  • ● 車椅子に乗せられた二人の入居者(女性)が、うしろは壁、前には大きいテーブルを置かれ、身動き出来ないようにサンドイッチ状にされていた。
  • ● きき手(左)にペットボトルを半分に切った筒状をミトン替わりにかぶせ手作りの手袋でおおっている。
  • ● ミトンがはめられた手首をベッド柵にひもでくくりつけている。

 

減算になるから身体拘束をしない?

身体を拘束する際には、切迫性・非代替性・一時性の3要件がそろっているうえで、本人及び家族への同意が必要となりますが、快く了承する人は誰もいません。仕方なく了承したとしても事例のような光景を目の当たりにしたら、家族はどう思うでしょう。

身体拘束を行う理由として、「利用者の安全を確保するため」と言う大義名分が持ち出されますが、拘束によって同じ姿勢が続くことで、筋力や心肺機能低下や、肺炎や感染症にかかりやすくなる、不安や恐怖心が高まると認知機能が下がるという報告もあるなど、さらに危険にさらしている側面もあるのです。

「減算になるから身体拘束をしない」のではなく、身体拘束がなぜ厳しい減算対象になったのか。その理由を全職員で振り返り、共有し、「人を縛ることが当たり前」の状況を解消していくことが、介護サービス従事者に課せられたと言えるでしょう。


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