高齢者に熱中症が多い理由と危険な症状
近年、日本では記録的な猛暑が続いています。地域によっては40度を超える日もあるなど、体力の低い高齢者や子供にとっては、まさに「命に係わる暑さ」と呼べる異常事態となっています。特に気を付けたいのが「熱中症」です。ニュースなどで熱中症対策が呼びかけられていますが、熱中症とは何か。また、どのような対策が必要なのか。一度確認してみましょう。
熱中症の半数以上が高齢者
2018年の夏は史上最高の暑さが続きました。気象庁の調査によると、7月23日に埼玉県熊谷市で、日本初となる41.1度を記録。最高気温の上位3位までを2018年が樹立する異常事態でした。4月末から8月12日までに熱中症で病院に搬送された数は、去年の2倍にあたる7万8345人にのぼり、これまでの最多となっています。
死亡した人が6人に上ったほか、入院が必要な人は2,334人で、このうち3週間以上の入院が必要な重症は115人、軽症が4,670人でした。年齢別では65歳以上が3,437人と全体の半数近くを占めるなど、高齢者にとって危険な環境となっています。
熱中症発生の原因と症状
熱中症は、大量に汗をかいているのに水分補給ができない、涼しい場所に移動できないなど、体が環境に適応できない場合に起こる様々な症状の総称です。室内外を問わず、気温が高い場所や湿気が多い場所などに長時間いることで脱水症状を引き起こし、悪化すると痙攣や意識障害を起こします。重症になると体温調節機能の働きが鈍り、体温上昇により細胞が破壊され、多機能不全で死亡することがあります。
熱失神 | 暑さによって末梢血管が拡張し、血圧の低下により血液の循環量が不足し、めまいや失神が起こる |
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熱けいれん | 大量の発汗によって、ナトリウム量が低下により筋肉が硬直して、筋肉の痛みやけいれんが起こる。 |
熱疲労 | 大量の発汗によって、脱水状態が進行することで体液の不足により、体温が上昇し、頭痛や吐き気、虚脱感が起こる。 |
熱射病 | 熱中症の分類の中で最も重症症状が進行し、体温調節機能が失われることで40度以上の高熱がみられ、発汗が止まり、意識障害が起こる。 |
高齢者が熱中症にかかりやすい理由
1 体温調節機能の低下
人間は汗をかくことで体温を調整していますが、高齢になると代謝機能が劣り、汗をかきにくくなります。汗によって皮膚の血流が増えて体内の熱を逃がそうとする機能が働かず、脱水症状を起こしやすくなります。また冬は寒くなっても皮膚の血流量があまり減らないため、体内の熱を逃がしてしまい、体を冷やしやすくなります。
2 高齢者は体内水分量・摂取量が少ない
人体の水分量は通常60%程度と言われていますが、高齢者の場合50~55%と少なくなります。高齢者が1日に必要とする水分量は、食事に含まれる水分以外で1000㎖以上~1500㎖未満とされていますが、6割の人が1000㎖未満の摂取であることが、医師らで作る「教えて!『かくれ脱水』委員会」で報告されました。のどの渇きを感じないことや、トイレに行く回数を気にするため、摂取量が少ないことが脱水の原因とみられています。
3 高齢者はあまり暑さを感じない
真夏でも長袖を着る高齢者を多く見かけるように、高齢者はあまり暑さを感じないと言います。身体の体温調整能力が低下しているうえに、水分摂取量が少なく、着衣で温度調節も行わないとなると、結果は目に見えています。
4 加齢による体力低下
健康で体力のある人に比べて体力が衰えている人が熱中症になると、一気に重症化する傾向があります。高齢者は糖尿病や肝臓病など様々な疾患を抱えているため、その傾向が顕著になります。
脱水や熱中症が脳梗塞につながるケースも
たくさん汗をかいたにもかかわらず、水分を補給しないままでいると、脱水症状を起こして血液が固まりやすい状態になります。それが血栓となり、血管を詰まらせてしまうことで、「脳梗塞」や「心筋梗塞」などを引き起こす要因になります。
熱中症の初期段階であれば涼しい場所に移動し、水分補給して体を休めることで体力が回復していきますが、脳梗塞などを発症した場合は回復が望めません。診断が遅れると後遺症が残ったり、死亡したりする危険があります。日本脳卒中協会や米国の脳卒中キャンペーンでは、脳卒中の見分け方として下記のような症状あげていますので、該当する場合は、すぐ救急搬送して専門的な治療を受けてください。
- 片方の手足・顔半分の麻痺・しびれが起こる(手足のみ、顔のみの場合もあります)
- 呂律が回らない、言葉がでない、他人の言うことが理解できない
- 力はあるのに、立てない、歩けない、フラフラする
- 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける。または片方の目にカーテンがかかったように、突然一時的に見えなくなる
- 経験したことのない激しい頭痛がする
※症状は1つだけ出現することもありますし、いくつかの症状が重複する場合もあります。
施設においても熱中症になる恐れが!
「熱中症は自分で温度調節ができない在宅高齢者がかかるもので、施設入所者は職員が管理しているので大丈夫」と思っている方はいませんか。筆者の経験談を記して終わりにしたいと思います。 連日30度を超える暑い地域のユニット型の特養に勤務していた時のことです。その夏は最高気温が38度に達するなど、エアコンをフル稼働しなくてはならず、毎月の電気代が高額になっていました。法人本部から対策を求められた施設長は、「入所者がユニットから出ることは少ない」と判断し、節約のためにユニットの外の廊下のエアコンを切ることにしました。
その節約が、思わぬ事態を招くことになります。ユニットのドアは施錠しておらず、職員が目を離した隙に、認知症の入所者が廊下を徘徊することがありました。冷房が切られた廊下は日当たりがよく、30度を超える暑さです。他の職員も自分のユニット内で業務を行っているため、ほとんど廊下に関心を寄せていません。たまたま発見が早く、事なきを得ましたが、気づくのが遅ければ脱水により意識混濁と言うことになりかねませんでした。
施設の中には「利用者のスペースには冷房は入れるが、職員だけが作業する場所には冷房を入れていない」という、お客様オンリーファーストの施設もあるようです。暑さが体にこたえるのは誰でも同じ。節約よりも人命を大切にしてください。