介護福祉士養成施設『せいとく介護こども福祉専門学校』の挑戦

介護福祉士を育成する専門学校や大学などの養成施設の入学者数が、全国的に減少しています。今後も介護福祉士養成施設が社会的使命を果たしていくにはどうすればいいのか。養成校の現状や学生数増加に向けた取り組みについて「せいとく介護こども福祉専門学校(札幌市)」の野村昌昭副校長に、養成校で教員経験を持つ吉田匡和が話を伺いました。

 

せいとく介護こども福祉専門学校の沿革

「せいとく介護こども福祉専門学校」は、1917年に西本願寺により成美女学校として開校しました。その後、成徳専門学校、成徳ビジネス専門学校、札幌社会福祉専門学校と校名を変更したのちに、2015年に現名称に改称しています。1985年には高齢化社会を見据えて社会福祉実務科を開設。現在は「介護福祉科」と、保育士などを育成する「こども福祉科」の二つの学科で福祉人材の育成に力を注いでいます。

 

高校における進路指導の現状

吉田:介護福祉士の供給先と言える養成校の学生数は2007年ごろにピークを迎え、2010年には20,842人、2,018年には15,506人にまで減少し、充足率は44.2%と低迷しています。この現状について、どのようにお考えですか?

 

野村:養成校の入学者数減少は、介護施設の人材不足に直結しています。介護施設は有資格者を採用したいものの絶対数が少ないため、介護の知識がない高校新卒者を採用する傾向が見られます。また、一部では「一般企業に不採用になったら、介護の仕事に就けばいい」というセーフティネット的な進路指導をしている高校もあるようです。

吉田:介護職の人気が低下している理由の一つとして、「低賃金」「重労働」「難しい人間関係」と言ったネガティブなイメージの定着が挙げられますが、その点をどう考えますか?

野村:介護技術の根拠などの理解が不足している新卒高校生が就職しても、長く勤め続けることは困難です。定着しにくい状況が離職を招き、慢性的な人手不足を引き起す要因になっていると考えられます。同校の卒業生の勤務年数は比較的長く、施設長などの管理者に就いた人も多数います。

 

安心して入学できる独自のサポート体制を導入

吉田:専門分野に就くためには、事前に専門教育を受ける必要がありますね。しかし、子どもが望んでも、親や高校の担任の反対により入学に繋がらないケースも多いと聞きます。

野村:これまで学生を確保するために、「どうすれば入学に繋がるか」を重点に置いていましたが、2019年度から卒業後のサポートも開始しました。具体的内容は次の通りです。

 

ゼロガク(入学前)

入学前1年間を「0学年(ゼロガク)」と位置づけた独自プログラム。「介護の道を真剣に目指す仲間と出会える」「介護職に就くまでの基礎学力が身に付く」「先生・先輩と交流でき、より学校のことがわかる」「自分の夢や目標をより明確にできる」の4つのメリットにより、入学前の不安を解消する。

 

プロガク(卒業後)

職業人として長く活動できる人材サポートを目標に、勤務年数や役職別に「悩んでいること」「身につけたい能力」を満たす研修を学校独自に実施。「人間関係づくり・人脈づくり」ができることで視野が広がり、モチベーションを高めるとともに、新しい目標が持てるようになる。

 

野村:メディアなどで負のイメージが伝えられていますが、実際に介護の仕事に就いて理解してもらうために、年間延べ40回ほど高校に出向いて生徒に向けて授業しています。また一部の高校には、教員の研修の一環として介護分野についての説明を行っています。

吉田:教員の感触はいかがですか?

野村:「あっ、そうなんだ!」という反応が見られます。イメージで判断されている部分はありますし、誤解もあります。「そうではない」という事実をデータで示しながら説明することで、理解を求めています。

 

どん底から一転、入学者数が2倍以上に増加

吉田:入学者数に変化はありましたか?

野村:まだ満足のいく人数ではありませんが、2018年度の入学者数が、これまでで一番減少したのに対し、2019年度は大きく回復しました。留学生やハローワークを通した職業訓練生も数名含まれています。今後は入学者数を増やすために、海外の学校との提携を進める予定です。

吉田:留学生の比率は、今後も増加する予定でしょうか?

野村:現状では、まずは高校生、次に外国人の入学を重視しています。ただし10年後は北海道の介護施設で働く介護職員の5~10%を外国人が占めるのではないかと言われていますので、入学者数は増えていくと思われます。

吉田:外国人学生との言葉の壁はありませんか?

野村:N2 レベルの人が入学しているので、日常的にはまったく問題ありません。入学した留学生は、学習意欲が高く成績優秀です。提携が円滑にいけば入学者数が増加すると思いますが、彼らは社会福祉法人の奨学金を求めて留学しているので、本校が「札幌及び近郊の施設と協力社会福祉法人を確保できるか」という新たな課題が出てきています。

吉田:高校生へは、どのようなアプローチをしていますか?

野村:いままでオープンキャンパスを一律に開催していましたが、個別性を重視した内容に変更しました。ゼロガクやプロガクについて説明することで、入学後の安心につながったと思います。また直接の理由ではないと思いますが、本校の指定校推薦枠(対象校・成績等の条件あり)の利用をインフォメーションしたところ、例年より成績優秀な方の入学が増えています。

吉田:卒業後もサポートを受けられる「プロガク」は、嬉しいシステムだと思います。

野村:公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、退職理由として「職場の人間関係に問題があったため」との回答が20%を占めていますが、この理由は介護に限ったことではありません。また、職場に相談できる環境がなければ一人で抱え込むことになってしまいます。そうした状況を回避するために、同じ学校を卒業した先輩・後輩が集まり、プロとしての役割を果たしていくための機会を設けました。

 

これからの介護福祉士養成施設の在り方

吉田:今後の展望を教えてください。

野村:入学者数が見込めないことから、各校は定員数削減を実施しましたが、本校は札幌で最も歴史のある介護福祉士養成校の使命として、定員80名を標榜し続けています。外国人留学生も増えていくと思いますので、入学者数が定員に近づけられるよう努力していきたいですね。

 

介護福祉士養成施設の未来は日本の未来

今回のインタビューで、「せいとく介護こども福祉専門学校」が果たそうとする社会的役割を実感することができました。養成校がなくなることは、学校関係者だけの問題ではなく、介護業界、そして日本の将来にも影響する問題です。

 

2017年度に396校あった介護福祉士養成校は、翌年に386校に減少。募集をやめたり課程を廃止したりしたところも10校ありました。「やりがい」や「社会的意義」だけで入学を勧めるのではなく、具体的な職業的ビジョンを提示し、アフターフォローもしっかりできる養成校が求められているようです。

 


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