地域の高齢者を支える週5日営業の認知症カフェ
認知症カフェの開催を月1~2回とする事業所が多い中、週5回も実施しているカフェが札幌市豊平区にあります。「認知症の人と家族、地域住民、専門職など誰でも集える場所でありたい」と理念を掲げ、「ユーカリ・デイ・カフェ」を経営する小林 恭海子さんに話を伺いました。
週5日間営業する認知症カフェ
「ユーカリ・デイ・カフェ」は、札幌市中心部から離れた豊平区の住宅地にあります。同区は昭和36年に札幌市と合併するまで「豊平町」と言う独立した自治体でした。古くから住む住民が多く、高齢化率は30%を突破。高齢者の約15%が認知症であると言われています。
「ユーカリ・デイ・カフェ」は、小林さんが経営するデイサービスの1階を利用しています。建物はまさに「我が家」。一戸建て住宅が改装され、広々としたフロアに迎えられました。ピアノが置かれ、センス良い小物で飾られた店内は、隠れ家的カフェそのもの。本格的なコーヒーや、手作りのスイーツがふるまわれています。
実績ゼロからのデイサービス設立
ごく普通の主婦であった小林さんが介護の世界に飛び込んだのは、今から約20年前のこと。フラワーセラピーとして道内の施設などをボランティアとして巡っていたのがきっかけでした。「自分でも介護にかかわる仕事がしたい」と考えて介護福祉士を取得。しかし実習先で見た光景は、理想の世界とは異なるものでした。
「当時はまだ集団介護の時代だったので、入浴や食事介助などが流れ作業のように行われていました」と言います。高齢者に対する尊厳のなさに、「このままでは親や自分が介護される時代になったときに、大変なことになってしまう」と考え、自らデイサービスを立ち上げる決心をしたといいます。
「誰もが最期まで、自分らしく生きるために」を理念に掲げたものの、実績ゼロからのスタートのため、なかなかケアマネジャーの信頼を得ることができず、経営的な苦労が続きました。「理念は日常の中で具体化して結果を出すもの」と職員一丸となって踏ん張りぬくと3年目で結果が出始め、5年目からは「日々をアートに」と言う独自の視点を持ち、近隣大学とコラボレーションした高齢者のファッションショーや朗読劇などを開催するなど、通常のデイサービスの枠を超えた活動を行っています。
ユーカリ・デイ・カフェに使われているフロアは、もともとデイサービス普及の一環として、ボランティアを招いたイベントスペースとして地域に開放しており、認知症カフェの構想と合致していたことから、4年前より現在のスタイルの営業を開始したと言います。
カフェは人々の駆け込み寺
多くの認知症カフェが月1~2回の開催であることに対し、小林さんは「それでは意味がない」と言います。高齢者は見た目だけでなく、心身の機能が著しく低下します。今自分が何をしていたのか分からなくなる。これまで出来ていたことができなくなる。一つ一つを失っていくことは恐怖であり、認めたくない事実ですが、そうしたことをすぐに専門家に相談できる人ばかりではありません。変化していく自分を見せたくない本人の自尊心、どうしていいのかパニックに陥る家族。地域には誰にも相談することができず、孤独に悩み、苦しんでいる人がいます。
ユーカリ・デイ・カフェには、勇気をもって足を運んだ人たちが、抱えていた思いを泣きながら吐露し、徐々に心を開放しながら前へ進んでいくと言います。「困りごとは決まった日に相談するものではありません。誰もいらっしゃらない日もありますが、いつでも来られる状態だからこそ、一歩を踏み出せない方が気軽に利用できる駆け込み寺になれるのだと思います」と、その意義を語ってくれました。
地域で高齢者を支える
「ユーカリ・デイ・カフェ」では、フラワーセラピストである小林さんの特技を生かしたオーストラリアのワイルドフラワーを使った小物づくりや、ボランティアによるカントリーラインダンス、練功の舞や絵手紙など、様々な楽しみが用意されています。取材中も評判を聞きつけた方が、交流の場として利用したいと相談に来ていました。早速近いうちに行われるイベントへの参加を約束。「歩いて通えるので運動になる」と喜んでいらっしゃいました。
「福祉」と言う言葉の意味を思い出す
札幌市は認知症カフェの認証は行うものの、補助などはありません。お茶とスイーツの代金はひとり200円ほどですが、とても黒字になるレベルではないため、小林さんのように複数回開催しているのは稀です。失礼ながら「お金にならないことをなぜ続けているのだろう」と考えながらインタビューしていましたが、話を聞いていくうちに「小林さんが行っているのは、ビジネスではなく社会福祉だ」と気づきました。
「社会福祉」とは「みんなが幸せ」と言う意味です。「福祉ビジネス」なる奇妙な言葉もありますが、本来は営利目的で行うものではありません。「人の幸せを願うことが、自分の幸せ」と考える福祉の基本を思い起こさせてくれたひと時でした。
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