時給1,000円・社保加入時代のパートの賃金管理

1.パートの賃金労務管理が大変だ!

パートの応募がサッパリ来ません。明らかに求人数と求職者数のミスマッチが起こっています。結果として最低賃金の上昇とあいまって、時給引き上げ競争の様相を呈しています。都心部の飲食店は時給1,100円を提示しても人がきません。

政府は一億総活躍社会として、最低賃金の全国平均を1,000円にすることを打ち出していいます。

2016年10月より週30時間以上勤務の従業員が500人超の会社は週20時間以上パート従業員も社会保険加入が義務付けされます。最低賃金の引き上げに加えて賃金の約16%の社会保険料の会社負担が増加します。3年以内に500人以下の会社も適用が予定されています。

年次有給休暇の強制付与制度(年間5日)も早晩法制化されるでしょうから、流通・外食の経営者が最も直視したくない「年次有給休暇」というパンドラの箱も開くことになります。

 

2.雇用管理区分を再考する

こうなれば、パートタイマーは「できるだけ短時間勤務で」「手取りを稼ぐ」希望がありますから、少なくともいち早く法改正が適用される上記500人超の会社は変化に直面せざるを得なくなります。

(今までのパートの雇用管理区分)

・ホドホドタイプ 週30時間未満勤務で年収103万円以下

・ソコソコタイプ 週30時間未満勤務で年収130万円以下

・バリバリタイプ 週30時間以上勤務で社会保険加入

(これからのパートの雇用管理区分)

・マッタリタイプ 週20時間未満で年収103万円(又は130万円)以下

・ホドホドタイプ 消滅傾向(週20時間の中途半端な勤務は×)

・新ソコソコタイプ 週30時間以上勤務で社保加入(年休はバッチリ取得)

・新バリバリタイプ 週35時間以上勤務で社保加入(年休はバッチリ取得)

 

3.マッタリタイプの例

マッタリタイプは難しい時間区分となるので、一部の子育て世代の女性が対象です。子育て世代で無い場合、3.75時間ずつパートの「掛けもち」もありえるでしょう。

・1日3.75時間×週5日勤務=週18.75時間勤務

・時給1,000円

・社会保険非加入

・年間収入 1,000円×週18.75時間×52週=975,000円(何も控除されずこれが手取り)

 

4.新・ソコソコタイプの例

週20時間以上勤務で社会保険加入であれば、これがパートタイマーの主流にならざるを得ないです。企業によってはこの層を「時間給社員(短時間正社員)」として、賞与付きで処遇し始めています。

・1日6時間×週5日勤務=週30時間勤務

・時給1,000円

・社会保険加入

・年間収入 1,000円×週30時間×52週=1,560,000円(年間手取りは社会保険料、所得税、住民税を控除され、1,265,000円程度になってしまう)

 

5.新・バリバリタイプの例

企業によってはこの層を「時間給社員(短時間正社員)」として、賞与付きで処遇し始めています。家庭の事情よっては、時間の経過とともに、職場でなくてはならない「フルタイムパート」に移行していく人もいます。

・1日7時間×週5日勤務=週35時間勤務

・時給1,000円

・社会保険加入

・年間収入 1,000円×週35時間×52週=1,820,000円

 

6.昭和のパートタイマーから時間給社員へ

パートの賃金管理の要諦は、「勤務形態(メニュー)を用意し、ホンネを聞き出し、ステップアップの道筋をつくる」ことです。この言葉は、10年前に私が連載していたときに雑誌記事に書いたことです。毎年のパートで働く従業員の「意向調査」は必須の取組みです。

でも、昔と異なる点があります。初任時給1,000円(ちょっと良い人を採ろうとすれば1,200円)の時代となり、少し昇給すれば、もう社員と時間給は変わらなくなっています。また、社会保険や年次有給休暇は社員と同等に扱うご時世となりました。また、企業のパート一人あたりの採用コストはもう限界に来ています。

とするなら、もうパートをパートと考えて労務管理していたら、コストが合わないということです。人を配置する場合、パートも社員も同様の仕事をしてもらい、ほぼ同様の生産性を上げてもらうしかありません。

まさに、仕事は同じ、能率も同じ「時間給社員」という身分で、たまたま家庭の事情で、パートタイムの時期とフルタイムの時期があるという扱いとなります。

最低賃金をウロウロするパートタイマーを多く雇用する前提で利益を出してきた会社は、抜本変更が求められます。

でも、そんな抜本変更など急にできないのですから、業態変更、機械化・省力化、ITシステム変更、企業風土改革、社員教育等、一口ずつ食べるように、条件整備して、いまから小さな変革を重ねる。少々の裏技も駆使しながら、今後5年間、「いわゆるパートタイマー」「いわゆる正社員」を減らして、一定の生産性が見込める「時間給社員」をつくっていくことになります。

 


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