【介護ビジネス独立開業の基礎知識6】介護保険外サービスに将来性はある?

介護保険外サービスの位置付け

前回までの記事でご説明してきた通り、介護ビジネスには2つのタイプがあります。

(A) 介護保険の適用されるサービス
(B) 介護保険外サービス

(A)の介護保険内サービスは、大きく分けて4種類です。

(A-1) 訪問系サービス
(A-2) 通所系サービス
(A-3) 入所系サービス
(A-4) 居住系サービス

また、利用者が受ける認定が「要介護」か「要支援」かにより、次の2タイプに分かれます。

・「要介護」認定・・・介護サービス
・「要支援」認定・・・介護予防サービス

(B)の介護保険外サービスは、次の2つのパターンがあります。

(B-1) 自治体が提供する福祉サービス
(B-2) 利用者が自費で受ける民間のサービス

また、保険外サービスは、次のような人たちも利用できるのが特徴です。

・介護認定を受けていない利用者
・介護認定を受け、利用可能な点数を使い切っている利用者
・介護保険に加入していない利用者

介護ビジネスは発展し続けている分野なので、ベンチャーや中小・零細企業などにも新規参入の機会が多くあります。中でも介護保険外サービスは、潜在的に大きなニーズを秘めており、発展途上の業界といえるでしょう。

ここからは、主な介護保険外サービスと、事業化のポイントを中心にご紹介していきます。

 

 

緊急通報サービスと見守りサービス

かつては自治体の提供する福祉サービスの一部でしたが、民間事業として広まりつつあるのが、緊急通報サービスです。現在、セキュリティ会社や生命保険会社などが参入しています。民間企業が自治体の委託を受ける形で、事実上の公共事業としてサービス展開しているケースもあります。

実際に提供するサービス内容は、次の2パターンです。事業化する際は、一方のサービスを選ぶか、または両方とも提供することもできます。

 

(1) 緊急通報機器の開発・貸し出し

現在開発されている通報機器には、さまざまなタイプがあります。

・住宅に設置するコールボタン(利用者が自分で押すタイプ)
・24時間対応の電話・メール
・カメラによるモニタリング(録画も可能)
・リズムセンサー(一定時間ドアが開閉しないなど、設定条件に合致すると自動的に通知)
・生体情報モニター(血圧、体温、心電図などのモニタリング)
・スマートフォン・携帯電話と、専用端末のセット

 

(2) 通報時に駆けつけるなどの対応

緊急通報時には、対応できるスタッフや、消防署、在宅介護支援センターなどに通知が届き、必要な処置が取られます。基本的に24時間対応です。利用者が居住する建物の安全管理をしたり、ケガ・急病などに緊急対応するサービスもあります。

現在、ニーズが急増しているのが、高齢者向けの見守りサービスです。上記のような緊急時に備えるタイプから、通常時の見守りまで、遠距離での在宅介護に対応する形で発展しています。訪問・宅配型の見守りサービスには、郵便局や生協などが参入中です。

 

 

医療・介護情報提供サービス

無料の介護情報提供サービスでは、認知症や施設についての電話相談が広く利用されてきました。有料の医療・介護情報提供サービスは、利用者が有料会員になるなどして、必要な情報を得られる仕組みです。

たとえば、以下のような情報が提供されています。

・高齢者向けの施設・病院の情報
・ケアハウスや有料老人ホームの情報
・各種介護サービスの情報

インターネットで情報提供する事業者は、ほとんどが無料で情報を公開しています。この場合、介護事業者などからの広告料が主な事業収入です。その他に、次のようなサービスで収益を得ています。

・介護関連ソフトウェアの開発・販売
・介護報酬の請求事務代行
・介護施設や事業者のWebサイト制作代行

 

 

外出援助サービス:介護タクシーと福祉タクシー

歩行困難などの理由で外出しづらい高齢者向けの、車による輸送サービスがあります。介護タクシーと福祉タクシーです。車椅子に対応できる福祉車両で、通院や旅行を支援したり、ヘルパーが外出(買い物や旅行)に付き添うサービスなども提供されています。

代表的な介護保険外サービスとして普及している、介護タクシーと福祉タクシーの概要をご説明しましょう。

 

(1) 介護タクシー

要介護者向けのタクシーによる送迎サービスのことで、「介護タクシー」または「ケアタクシー」とも呼ばれます。介護保険サービスの「通院等乗降介助」と混同されることもありますが、運送業としての介護タクシーは、あくまで介護保険外サービスです。利用料(メーター料金)に保険は適用されません。

タクシー乗務員は、介護経験や資格を持っている場合が多く、ホームヘルパー研修を受けている人もいます。

 

(2) 福祉タクシー

元は公共事業として、市町村が利用料金の一部を負担する形で始まったサービスです。主にタクシー会社が運営していますが、市町村が補助しているケースも多くあります。

サービス提供には、高齢者や要介護者の乗降に対応できるよう、低床のミニバスや、乗降リフトなどの機能を備えた「福祉専用車両」が使用されます。大型の乗用車タイプで、簡単に座席が移動できたり、車椅子ごと乗り降りできる車両も人気です。こうした高齢者向け車両の開発も進んでいます。

次に、外出援助サービス事業化のポイントをご紹介します。

・福祉輸送事業には、陸運局の許可が必要
・原則として、要介護者・身体障害者向け
・開業には、専用の福祉輸送車両・緑ナンバー・二種免許が必要
・利用者は通院・通所目的で、平日朝と夕方の利用が多い
・事前予約制で定期利用が多く、安定した運営が見込める

 

 

大手流通業が牽引する配食サービス

配食サービスは、在宅介護の流れを受け、今後も成長や拡大が見込める事業です。自治体から事業者向けに補助金が出る場合もあります。現在、多くの事業者が、年中無休で1日2食を宅配するサービスを提供しています。すでに大手流通業を中心に、セブンイレブンなど大企業の参入がめだつ分野です。

配達される食事(または弁当)は調理済みです。高齢者向けに、栄養価や食べやすさにも配慮が必要となります。

事業化のポイントは、利用が高齢者や要介護者であることを前提に、宅配システムをどう対応させていくかです。具体的には、以下のような需要が想定されます。

・自力で受け取れない・食べることができない人への対応
・配達時間の選択や、変更・急なキャンセルへの対応
・配達容器や食器に「こぼれにくい」「開けやすい」といった工夫が必要
・苦手な食材を抜いたり、量や固さなども個別に注文を受けられる工夫

 

 

今後ニーズが高まる?訪問理美容サービス

訪問理美容は、車椅子や寝たきりの人が、自宅や施設でサービスを受けることができます。事業化のポイントには、前回記事でご紹介した訪問系の介護ビジネスと共通点があります。

・初期投資が少なめ(店舗が不要)
・定期的な利用者の獲得で、安定した収益が見込める
・地域に密着し、近距離内で複数の利用者を効率よく訪問

まもなく、団塊の世代をはじめ、戦後生まれの人たちが後期高齢者の年齢に達します。高齢でも身体が不自由でも、おしゃれを楽しみたい!という層に向けて、潜在的なニーズが見込まれる分野です。

理美容学校でも、併せて介護福祉士の資格を取得するよう、学生に積極的に薦めているケースもあります。

理容師・美容師は、元々いろいろな世代の顧客が対象となる仕事です。接客が得意で、優れたコミュニケーション力を持つ人が活躍中の業界なので、介護ビジネスへの展開には、多くの可能性が期待できそうです。

 

 

成年後見法と財産管理サービスのゆくえ

2000年4月、改正された新しい成年後見法がスタートしました。介護保険外サービスの新事業として、この制度に基づく、高齢者向けの財産管理サービスが注目されています。

 

(1) 「財産管理委任契約」とは?

従来の財産管理とは、財産を持つ高齢者が個別に弁護士や銀行と契約し、委任する形が一般的でした。

これは、財産管理について、本人が具体的な管理方法を決めた上で、選任した人に管理の代理権を与えます。契約の形式は、民法による「任意代理契約」となります。この場合、契約内容は自由に決めることができ、当事者間の合意があれば発効します。

 

(2) 新しい「成年後見法」とは?

振り込め詐欺などの高齢者を狙う犯罪の増加を受け、従来の制度から改正されました。認知症や知的障害などの理由で判断能力のない成人は、「成年後見人」を選ぶことで、本人の権利を守ることができます。

後見人は、次の3段階制となっています。

・補助
・保佐人(準禁治産者の保護者のこと。財産上の行為に同意権を持つ)
・後見人(未成年者または禁治産者を監督保護する人)

注)禁治産者…心神喪失などの理由で、法律上、自分で財産を管理できない人。
準禁治産者…心神耗弱や浪費などの理由で、意思能力が不十分かつ重要な法律行為で不利益を受けやすいとみなされ、自分で財産を管理できない人。

後見人は家庭裁判所が決めますが、元気なうちに自分で選んでおくこともできます。高齢となり金銭管理が難しくなった場合に備え、後見を依頼する人を選び、任意に委託することが可能です。

 

(3) 事業化のポイントは?

成年後見の相談窓口は、地域包括支援センターです。関連サービスを運営する際は、センターと連携して地域内にネットワークを広げたり、事業の信頼性を高める必要があります。

自力での金銭管理が難しい人だけでなく、積極的に運用しながら資産を守りたいと考える人たちも、重要な顧客層となるでしょう。

また、日常生活に必要な金銭管理を支援するサービスも、自立支援事業を中心に提供されています。

・通帳の管理
・預金・年金の引き出し
・公共サービスの支払い手続き

これらを代行するサービスは、現在、比較的安価な福祉事業として提供されています。しかし、今後の需要の高まりを受け、新たな関連サービス分野が生まれるかもしれません。

 

 

ニーズが急増する、高齢者向け住宅

バリアフリーの住居に、安否確認や相談機能を組み合わせ、さらに複数の介護保険サービスも受けられるのが、高齢者向けの「サービス付き住宅」です。2012年度から10年間で60万戸を増設するよう、国の方針で発表されています。

これまで広く利用されてきた有料の老人ホームは、老人福祉法に基づく福祉住宅です。ホーム内での介護サービスの利用についてのみ、介護保険が適用されるため、厳密には介護保険外サービスではありません。提供するサービス内容は、終身対応から一部の介護サービス限定まで、さまざまなタイプに分かれます。

老人ホーム以外にも、シルバーマンションやケアハウスといった、賃貸や分譲型の高齢者向け住宅が、不動産経営の対象として注目されています。

 

 

 

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