高齢ドライバーによる送迎車運転事故事例
近年、高齢者の運転による事故が多発しています。年間20万人もの人が運転免許証返納を行っているものの、コンビニや通行人に突っ込むなど、高齢者ドライバーによる事故は絶えません。介護事業所においても他人ごとではなく、人手不足により事業所によっては高齢者ドライバーの採用を余儀なく行っているところがあります。事故事例をもとに、高齢者ドライバーの特性や、運転させる際の注意をまとめました。
1 高齢者は交差点での判断により時間がかかる
運転シミュレーターを使った実験によると、交差点で迫ってくる対向車を認識して回避するまでの時間的余裕は、若者で平均1.9秒でしたが、70代の高齢者の平均時間は1.2秒でした。わずか0.7秒の違いですが、60km/hで走行している場合、12mも進むことになります。下記の事例は、そうした判断ミスが引き起こしたと思われる事故です。
67歳の男性が運転するデイサービスの送迎車と乗用車が衝突し、送迎車が横転。乗車していた7人のうち、デイサービスの利用者の54~92歳の男女5人が頭や首などを打って重軽傷を負い、送迎車の運転手の男性職員と乗用車を運転していた女性も軽傷を負った。現場の交差点には信号機があり、北へ向かっていた乗用車と西進中の送迎車が交差点の中央付近で出合い頭に衝突し、弾みで送迎車が横転したとみられる。 |
典型的な高齢者の事故と言えます。危険を察知してからブレーキを踏むまでの反射の遅れがなければ防ぐことができた事故かも知れません。
2 高齢者は見える範囲が狭い
自動車の運転する際、約8割の情報を目から取り入れていると言われています。しかし高齢になると、ものが見える範囲が狭くなります。正面を向いて片目で左右90度の範囲が見えることが望ましいのですが、65歳を超えると60度くらいに狭まってしまう人が多いといいます。
視野検査は高齢者講習の中でも取り入れられていますが、前回はクリアしていても次の更新までに衰えていないとは限りません。「見えていない」は「人がいない」と同じ感覚です。この事故も、そうした高齢者の特性により起こったものと言えるでしょう。
道路を横断中だった女性が、介護施設の送迎用ワンボックスカーにはねられ、搬送先の病院で死亡。警察は67歳の運転手を現行犯逮捕した。現場は片側1車線の信号機のない交差点で、ワンボックスカーが右折しようとしたところ、反対側から道路を渡ろうとした女性と衝突した。調べに対し運転手は「ぶつかるまでわからなかった」と話している。 |
「ぶつかるまでわからなかった」と言う点については、「歩行者が見えていなかった」と置き換えることができます。ワンボックスカーは死角が多いため、小柄な女性や子供などを見落としがちになります。視野狭窄に加えて、そうした車両特性も事故の要因と考えられます。
3 高齢者の体力・集中力の衰え
自動車は黙ってハンドルを握っていればよいものではなく、対向車や歩行者、道路状況や天候などにも注意しなければ運転できません。そのためには集中力が必要となります。しかし高齢者の集中力は長く続くものではありません。
長距離ドライブやレジャーなどの帰り道に、疲れから眠気に襲われ、ヒヤリとした経験がある人は少なくないでしょう。特に高齢者は集中力や体力が低下しています。下記の事故は、そうした特性が招いたと考えられます。
71歳の男性が運転する介護施設の送迎車が道路左側の街路樹に衝突し、横転した。送迎車に乗っていた施設利用者ら7人が病院に搬送され、5人が重傷を負った。送迎車は、山へ紅葉狩りに行った帰りだった。現場は、田畑に囲まれた見通しのいい片側2車線の直線。警察はハンドル操作を誤り事故が起きたとみて、詳しい原因を調べている。 |
見通しのいい片側2車線の直線で、運転を誤る理由として「居眠り」が考えられます。山へ紅葉狩りに行った帰りと言うことで、起伏の激しい場所を歩いたかも知れませんし、普段の送迎よりも長距離走行であったことも推測されます。
4 高齢者は衰えを自覚していない
ある教育機関が実施した「事故を回避する自信があるか」という調査に対し、75歳以上の高齢者の53%が「YES」と答えたと言います。19世紀のイギリスの作家オスカー・ワイルドは、「老年の悲劇は老いているところにはなく、まだ若いと思うところにある」と明言を残しています。老いは、じわじわとやってくるため自分が年を取ったと言う自覚が起きにくいものです。次の事故も、そうした過信から起きたものと思われます。
71歳の男性が運転する介護施設の送迎用ワゴン車がカーブ手前で路外に逸脱。そのまま道路左側の電柱へ衝突して大破。後部座席に同乗していたデイサービス利用の高齢者5人と運転手、助手席に同乗していた22歳の女性介護士が打撲などの軽傷を負った。運転者の体調不良が事故につながったとみられている。 |
高齢になると、短期記憶は衰えるものの、これまでの経験や知識は蓄積されていると言います。しかし運転については「熟練の技術」は当てはまりません。この事故の運転手は71歳と高齢な上に、運転前から体調不良だったとのことが判明しました。責任感からハンドルを握ったと考えられなくもないですが、事故を起こしてしまっては元も子もないのです。
高齢者ドライバーが増加する
アジア諸国の観光客が驚くことの一つとして、我が国は高齢者のドライバーが多いことが挙げられています。バス、タクシー、トラックなど輸送業界でもドライバーの高齢化が問題視されています。送迎を必要とする介護業界においても他人事ではありません。高齢の方をドライバーとして雇用する場合は、健康管理や運転の傾向を把握し、安全運転に努められるよう、日頃より指揮監督を行ってください。