介護ビジネスを取り巻く課題-新規参入検討者必見

介護ビジネスのフランチャイズ会社の案内を見ていると、「異業種から介護ビジネス参入をお考えの方や、空き土地、空きテナント等を有効活用したいとお考えの方に最適」というような誘い言葉が見られます。経営には本部からのバックアップを受けられるのでしょうが、安定した経営のためには経営者自身の努力が必要であり、絶えず介護福祉の動向を知ることが必要です。ここでは特に未経験から介護事業に参入しようと考えている方々に、介護事業を取り巻く問題をお伝えします。

 

介護事業の課題

・人件費の削減と効率化が達成しにくい

介護は食事、排泄、入浴、送迎など何をするにも人と時間が必要になり人件費がかさみます。職員の配置定数が決められているので、たとえ著しく利用率が低くても基準に沿った数の職員を配置しなくてはなりません。人件費の削減と効率化。経営にとって不可欠ともいえるこの2つが達成しにくい業種なのです。

・収入は介護報酬頼み

独自に価格を設定し、大量に販売することで利益を上げる小売業や飲食店と異なり、サービス内容や利用者の介護度に応じて介護報酬は国が定めています。しかも頼みの綱の介護報酬さえ、2015年に大幅に引き下げられました。国は社会保障の抑制を計画しているため、今後も厳しくなることが見込まれています。

・介護度が職員数に反映されていない

利用者の介護度が上がると介護報酬が高くなりますが、介護度が高くても職員の配置基準は変わりません。「介護度の高い人にたくさん利用してもらって、少ない人数で介護すれば儲かる」などと考えたら大間違い。介護にかかる手間が増えるため疲労感やストレスが蓄積され、退職者が増えたり時には虐待の原因にもなります。配置基準以上に職員を配置したくても人件費が増えるため、小規模事業所では少しばかりアップした介護報酬では採算がとれません。まさに四面楚歌です。

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小規模デイサービスを取り巻く現状

・介護保険制度が改正されるたびに翻弄

財務省は、「要介護度の重度化防止や自立支援のための取り組みに力を入れず、利用者に居場所だけを提供しているような通所介護事業所については、減算措置も含めた介護報酬の適正化を図るべき」とし、軽度者に対する通所介護などは自治体が主導する地域支援事業に移行することを提案しています。

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具体的には全国一律の基準を改め、2017年4月までに各自治体が実施主体となる方式に変更。新方式では軽度(要支援1、2)の介護サービスについては、事業所への報酬を下げることを原則としているため、これまでサービスを提供していた事業所はビジネスが成り立たない可能性が濃厚になりました。

 

・「お泊りデイサービス」にガイドライン制定

これまで明確なガイドラインが設けられていないことにより、一部で劣悪な介護が行われていたことによる対応策として2015年4月30日に厚生労働省は、介護保険外サービスである「お泊りデイサービス」について「お泊りデイサービスを提供する際のガイドライン」を発表しました。

ガイドラインでは、お泊りデイサービスの定員や夜間の人員体制、運営方針なども細かく定められました。その結果、人件費や設備投資の負担が増額。平成30年3月31日までにスプリンクラーの設置ができない場合は事業の継続ができなくなるなど、大きな打撃を与えました。

小規模デイサービスは、全国に2万件あるといわれ、その25パーセントがお泊りデイサービスを実施しているといわれています。フランチャイズでは介護保険適応のデイサービスの傍ら、介護保険外サービスであるお泊りデイサービスで収益を上げていたため、ガイドラインの制定は足枷そのもの。中でも約400万円~500万円もの費用がかかるスプリンクラー設置は致命傷になりました。大切な収入源だった延滞加算もなくなり、いまや「お泊りデイサービスを続けても儲からない」といわれています。

 

まとめ

人生に関わる高齢者介護は、本来、国が行うべき社会保障のひとつのはずですが、介護保険法施行後、「サービス」に擦りかえられ、公共性と自由競争という矛盾の中に身を置いています。市場の活性化のためには、さまざまな業種が参入することは喜ばしいことですが、その性質上「儲け話」だけで始められるものではありません。

介護保険料を徴収しているにも関わらず、「社会保障の抑制」という目的のために、報酬が引き下げられ、利用できるサービスを限定される矛盾をよく理解し、メリットがあるのか、また人の生活に関わる責任を持てるのかをよく考えた上で、介護事業への参入を検討していただきたいものです。

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