介護支援専門員(ケアマネージャー)を採用する時の留意点

介護支援専門員は、介護保険法に定められた公的資格です。居宅介護支援事業所・介護予防支援事業所・介護保険施設・グループホーム・小規模多機能型居宅介護事業所等に所属し、利用者の介護全般に関する相談援助や関係機関との連絡調整を行う役割を荷っています。一方で介護支援専門員の資質について、さまざまな課題が挙げられています。介護支援専門員を採用する際の留意点を紹介します。

 

介護支援専門員の資質

介護支援専門員に関する資質については、これまで何度も検討されています。2013年に厚生労働省が公表した「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討」では、次のような課題が問題視されています。

  • 介護保険の理念である「自立支援」の考え方が、十分共有されていない。
  • 利用者像や課題に応じた適切なアセスメント(課題把握)が必ずしも十分でない。
  • サービス担当者会議における多職種協働が十分に機能していない。
  • ケアマネジメントにおけるモニタリング、評価が必ずしも十分でない。
  • 重度者に対する医療サービスの組み込みをはじめとした医療との連携が必ずしも十分でない。
  • インフォーマルサービス(介護保険給付外のサービス)のコーディネート、地域のネットワーク化が必ずしも十分できていない。
  • 小規模事業者の支援、中立・公平性の確保について、取組が必ずしも十分でない。
  • 地域における実践的な場での学び、有効なスーパービジョン機能等、介護支援専門員の能力向上の支援が必ずしも十分でない。
  • 介護支援専門員の資質に差がある現状を踏まえると、介護支援専門員の養成、研修について、実務研修受講試験の資格要件、法定要件の在り方、研修水準の平準化などに課題がある。
  • 施設における介護支援専門員の役割が明確でない。

 

介護支援専門員の資質については、個人の力量だけでなく、幅広すぎる受験対象や事業所での役割によって大きく左右されます。採用は次の点に留意してください。

 

介護支援専門員以前の経歴を重視する

一般的に相談援助業務は、社会福祉士や精神保健福祉士など、専門性を持った者が行いますが、介護支援専門員の受験資格は相談援助と関連がない職種が多く含まれています。介護支援専門員の約半数は介護福祉士と言われていますが、介護のエキスパートだからと言って、すぐに相談援助業務が行えるわけがありません。また介護職であったために介護を第三者として見られない場合もあります。

「資格取得はスタートライン」と言われるくらい、その後の経験や知識の蓄積が必要です。介護支援専門員を採用する際は、それまでの経験を重視し、相談援助業務の経験が十分でない場合は、経験ある介護支援専門員のスーパービジョンを受けることができる、随時外部研修が受けられる体制を整えるなど、本人の力量のみに頼らない工夫を行ってください。

 

生活相談員と介護支援専門員の役割を明確にする

施設ではこれまで介護支援専門員不要論が繰り返されてきました。「生活相談員が配置されているため、似たような職種は必要ない」「施設はサービスが限定され限度額もないため、活躍の場が少ない」「介護支援専門員以外の職員でもケアプランは作成できる」などが不要とされる理由です。

サービス担当者会議で得た情報をまとめて、ケアプランを作るだけなら介護支援専門員の必要性は低いと言えるでしょう。ケアマネジメントを行うためには、ソーシャルワークの能力も求められます。新規の相談や行政など外部との調整などを生活相談員が、入所者や家族の相談は介護支援専門員が行うなど、採用の際には介護支援専門員の役割を明確にしておかなくてはなりません。

 

兼任業務はデメリットが多い

介護支援専門員を他の業務と兼任させている事業所も見られますが、介護支援専門員として採用されたのに他の職種のウエートが高くなるようでは、モチベーションが下がってしまいます。兼任は人件費削減という雇用側のメリットがありますが、兼務発令された者は専門性が阻害され、効率を低下させるデメリットを発生させます。人材数の限られた中で兼任をせざるを得ない状況も多いと思いますが、そうしたデメリットを考慮のうえ、最善な方法を検討してください。

 

介護支援専門員の現状

2018年に実施した介護支援専門員実務研修受講試験の合格率は、2016年度の13.1%を3ポイント下まわる過去最低の10.1%でした。減少の理由として、今回の試験から受験資格が厳格化されたことに加え、介護支援専門員に求められる役割が大きいわりに処遇が十分でないことが挙げられています。

 2016年に介護給付費分科会が公表した「居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業」の勤務上の悩みにおいて、「自分の能力や資質に不安がある(約40%)」が最も多く、「賃金が低い(約30%)」が2番目に多く回答されています。業務遂行の悩みについては、「記録する書式が多く手間がかかる(約70%)」が最も多く、「困難ケースへの対応に手間がとられる(約50%)」と続いています。

 

AIで介護支援専門員の悩みは解決できない

厚生労働省は、2016年より自立支援を促進する人工知能(AI)ケアプランの調査を実施。さまざまな企業や自治体がデータの蓄積や検証を行ない、すでに利用者の健康状態などの項目を入力すると、ケアプランが瞬時に作成されるなど実用化に近づけている企業もあります。

AI技術により介護支援専門員の負担が軽減されると言われていますが、AIが困難ケースや緊急事態に対応することはできず、やはり相談を受けるのは介護支援専門員でなりません。いくら機械が発達しても相談援助は人間にしか行えないのです。よく言えば「AIに仕事を取られることはない」、悪く言えば「AIに悩みの本質は解決できない」と言ったところでしょう。

 

居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000116471.pdf

 

【関連ページ】ケアマネジャーの現状と課題

ケアマネージャーは、要介護者のニーズに基づいてケアプランを作成したり、利用できる限度額を計算しながら介護サービスの利用調整を行うなど、その業務は多岐に渡っています。多忙な業務や待遇の低さ、受験者数の低下や資格を取得しても実務に就く人が少ないなど、さまざまな問題がみられます。ケアマネジャーの現状と課題については、こちらのページで確認ください。

 


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